遥かなる水の音 村山由佳



今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマ「新刊が出るとつい買ってしまう作家」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから

https://docs.google.com/document/d/16tYQEzsX76riqN-3FWtc437c5Fegun2IZCzN3u_m1MY/edit#heading=h.n8izfi7mfmtk



テーマ「新刊が出るとつい買ってしまう作家」

ラジオネーム ゆみこさん

「村山由佳さん」

①村山由佳さんのおススメどころ
最近は官能的な側面ばかりクローズアップされている由佳さんですが、本質は深く“人”を描く人。
柔らかくしなやかで、でも心はジュッと焦げそうに熱い人となりも大好きです。

②おススメの作品
直木賞受賞作の「星々の舟」もとてもいいけど、一番は何と言っても「遥かなる水の音」。 

③気になる作家さん
最近出会った作家さんでは一木けい(いちき けい)さん。
ビュー作の「1ミリの後悔もない、はずがない」がど真ん中でした。
次作の「愛を知らない」はちょっと物足りなかったけど、これからが楽しみな作家さんです。

「遥かなる水の音」
パリで、ひとりの青年が死んだ。
最期をともに過ごした同居人は、ゲイの中年フランス人だった。
青年の遺言は、「遺灰をサハラにまく」こと。
フランス、スペイン、モロッコ―。
青年の姉、友人のカップル、同居人のグループは、様々な思いを抱えたまま、遺言を叶える旅に出るが…。

村山さんと深夜特急シリーズの沢木耕太郎さんとの対談が集英社のサイトにあります。

https://www.shueisha.co.jp/harumizu/taidan/index.html

村山由佳 プロフィール
1964(昭和39)年、東京都生れ。立教大学卒。
1993(平成5)年『天使の卵―エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。
2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞した。

著書
『アダルト・エデュケーション』
『放蕩記』
『天使の柩』
『ありふれた愛じゃない』『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』『嘘 Love Lies』『ミルク・アンド・ハニー』『燃える波』など。

著者 一木けい

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。
2016年、「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2018年、受賞作を含む単行本『1ミリの後悔もない、はずもない』(新潮社刊)でデビュー。
現在、バンコク在住。

「1ミリの後悔もない、はずもない」
【あらすじ】
「俺いま、すごくやましい気持ち……」わたしが好きになったのは、背が高く喉仏の美しい桐原。あの日々があったから、そのあと人に言えないような絶望があっても、わたしは生きてこられた――。
ひりひりと肌を刺す恋の記憶。
出口の見えない家族関係。
人生の切実なひと筋の光を描く究極の恋愛小説。
R-18文学賞読者賞受賞作。

桜ほうさら 宮部みゆき

「人には大きな口を叩かず、一途に生きる道がある」by 坂崎

【あらすじ】
江戸深川の富勘長屋に住む古橋笙之介は上総国搗根藩から父の汚名を晴らすためにやってきた。
笙之介の父は全く身に覚えのない賄賂を受け取った罪を着せられたのだ。
証拠は父、宋左右衛門からの賄賂の受け渡しや額が書いてある文書だった。
宋左右衛門は身に覚えがないが、その文書の字は自分の手跡なのである。
何者かにはめられた宋左右衛門は切腹し、介錯は兄の勝之助だった。
お家は取り潰しとなり、母と兄は母の実家に身を寄せていた。

笙之介は留守位役の坂崎を訪ね富勘長屋に住み、貸本屋の治兵衛からの写本の仕事を生業としている。
長屋からは一本の桜の木が見える。
まだ桜に花が咲き始めた頃に笙之介は桜の木を眺めるおかっぱ頭の少女を見かける。
桜の精のようだ…笙之介と和歌とが出会った瞬間だった。

江戸でただ住んでいるだけでは何も手がかりが掴めない笙之介は治兵衛に他人の文字をそっくりそのまま書ける人に心当たりはないか知人に聞いて欲しいと頼む。
笙之介自身も代書屋を巡り、同じ様に聞いてまわっていた。
そんな笙之介の長屋にある日、酒臭い男が訪れる。
自身を押込御免郎と名乗るその酔っ払いは自分が探している代書屋だと言うのだ。
怪しむ笙之介。
本当にこの男が探している男なのか?
押込は字を書き始めた…。

PHP研究所より引用

【感想】
文庫本で上下巻になる大作です。
父親の仇の話だけではありません。
同姓同名「古橋笙之介」を訪ねてくる奥州の武士の話。
貸本屋の治兵衛が懇意にしている貸席屋の娘が誘拐された話。
などが途中で入っています。

それぞれの話から笙之介と和歌の距離が少しずつ縮まってきます。
全体を通して書かれているのは、親と子、夫婦の在り方です。
宋左右衛門と笙之介、宋左右衛門と勝之助、笙之介と里江
和歌と母、お吉と母、治兵衛と亡き妻
親子だからこそ思ったことを相手に伝えることの大切さが第三章の拐かし(かどわかし)を読んで思います。

宮部さんは悪党にもそうならざるをえない状況を匂わせる文章を書くのが上手い小説家です。
それはきっと宮部さん自身が人を信じることができる人なのではないか…。
そんなことを思いました。
ラスト近くでは涙ぐんでしまいました。

表紙や挿画の三木謙次さんの絵が可愛くて、お話を引き立てています。

おススメ度
★★★★

時代小説やミステリー好きな人におススメです。
人情噺でもあります。

【目次】
第一章 富勘長屋
第二章 三八野愛郷録
第三章 拐かし
第四章 桜ほうさら

PHP文芸文庫
412ページ(上巻)
428ページ(下巻)
2016年1月5日第1刷発行
本体価格 上下巻共740円

著書 宮部みゆき
1960年(昭和35年)、東京生まれ。

87年、「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。

92年、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、93年、『火車』で山本周五郎賞、97年、『蒲生邸事件』で日本SF大賞、99年、『理由』で直木賞、2007年、『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。 

著書時
『<完本>初ものがたり』
『あかんべえ』
『孤宿の人』
『荒神』
「ぼんくら」
「三島屋変調百物語」
『模倣犯』
『小暮写眞館』
『ソロモンの偽証』など多数

PHP文庫 「桜ほうさら」ページ

上記サイトに入ると、人物相関図や宮部みゆきさんのインタビュー記事も読めますよ。

コールセンターガール 増田一志

「矢吹はもはや一種の兵器です。人間関係破壊兵器」by 黒木

【あらすじ】

横浜アイウェアお客様ご相談窓口の坂本春代は毎朝9時7分過ぎにかかる電話に出る。
相手は矢吹徹。
カルティエ(矢吹はカルチエと言う)の眼鏡を店員が素手で触ったとのクレームなのだ。

矢吹は「春代ちゃん」と呼び自分のことを「徹さん」と呼ばせる。
そしていつも言うのだ。
「で、それでどういう誠意をお前さんたちは見せてくれるんだ」
具体的には言わない。
金品を要求すると暴対法の対象として処理できる。
矢吹も心得ているので、決して具体的には自分から言わない。
春代も決して具体的に誠意の内容を言わない。
矢吹は毎朝、電話してくるのだ。
一定のやり取りが済むと矢吹は昼前まで世間話を始める。

その日もいつもの様に矢吹から電話がかかってきた。
矢吹は春代の卒業した大学名や子どもが居ること、シングルであることを話し出す。
春代は「誰が自分の情報を漏らしたのか…」
そのことが気になり矢吹との会話に集中できなくなる。

春代は高校生の同級生の真藤が社長になったのを新聞で知る。
久しぶりに真藤と食事をすることになった春代は飲みすぎてホテルで介抱されている時に暴漢が入ってきて真藤は殴られる。
真藤の会社の弁護士が春代のところへやってきた。
先日のホテルでの一件が写真に撮られていたのだ。
弁護士は春代と暴漢がぐるだと疑ってかかった物言いだった。

矢吹からの電話でつい真藤とのこと、弁護士が来たことを話してしまう。
暴漢は矢吹がらみではなかったが、話の中で春代はつい「ちょっと迫られもしました」と言ったのを録音していた。
これをネタにゆすることができる。
春代は矢吹に止める様に懇願する。
すると矢吹は「俺のいう事をなんでも聞くか?」と交換条件を出してきた。
「出来るだけ努力する」と答える春代。
一体春代は矢吹からどんな難問を突きつけられるのか…。

【感想】
この小説は1話、2話、3話と続きます。
1話での春代のコールセンターガールとしての受け答えが完璧で引き込まれました。
やくざだと思っていた矢吹の正体が1話で明かされます。
思わず「おぉ~っ」と唸ってしまいました。
ここで終われば短編ですが、秀逸な小説でした。

2話、3話と進むにつれて、矢吹が暴走します。
風呂敷を広げ過ぎたのではないか??
と思う展開になりました。

とはいえ、矢吹の存在は実際にあるだろうし、
ひょっとするとどこかで現実に起こっているかも知れない。
と思わせる(1話に限りですが)話でした。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、
気になる方はぜひ読んでみてください。

おススメ度
★★★
(1話だけなら★★★★)

スタイルノート
416ページ
2019年8月30日第1刷発行
本体価格 1800円

著者 増田一志
1959年生。
1983年東京大学文学部イタリア文学科卒。
2014年小学館「ゴルゴ13脚本大賞」佳作受賞

最後まで読んで頂きありがとうございます。
当ブログの記事があなたの読書のお役に立てれば幸いです。
また読みに来ていただけると嬉しいです。

40代からの「太らない体」のつくり方 満尾正

「太らない体は長生きする体」

平均寿命が伸びてきて人生100年時代と囁かれています。
著者の満尾正氏は内側からのアンチエイジング治療をされている専門医です。
満尾氏の著書から健康で太らない体を作るコツを紹介します。

老廃物をきちんと排出する

排便、排尿、発汗、呼気(吐く息)は、老廃物や有害物を取り除く「体内そうじ」の手段です。
排泄機能を高めることは健康維持に重要な役割を果たしています。

消化器のリセットをする

小腸、肝臓、すい臓などの消化器は栄養素を吸収する大事な役割があります。
3回の食事だけでなく、間食が多ければ消化器は休みなく働き負担が大きくなります。
・間食をやめる
・食事の間隔を十分にあける(理想は6時間)
・発酵食品(みそ、納豆、漬物、ヨーグルトなど)や食物繊維(野菜、いも、きのこ、海藻など)を多く摂る
➡ 排泄の機能を高める

汗をかく

体の中に有害物質(水銀、鉛、カドミウムなど)が溜まると活性酸素が大量発生し、体の酸化を進行させます。
汗をかくことによってこれらの有害物質を排出することができます。
・有酸素運動
・軽い筋力トレーニング
・低温サウナ
・岩盤浴
・半身浴

注) 高温サウナで汗をかいて水風呂に入るのを繰り返すと、心臓や血管などの循環器に大きな負担がかかっています。
その後の冷えたビールはもってのほか!!

ゆっくりじっくり体の奥から温めて発汗させましょう。
水分を十分に補給して、無理に長時間入らないように。

抗酸化物質を摂って体の錆に対抗する

抗酸化物質とは活性酸素を取り除き、酸化の働きを抑える物質のことです。
活性酸素は微量であれば人体に有用な働きをしますが、大量に生成されると過酸化脂質を作り出し、動脈硬化・がん・老化・免疫機能の低下などを引き起こします。
(厚生労働省 eーヘルスネットより引用)

抗酸化物質を多く含む食品
・ベータカロチン…にんじん、かぼちゃ、ほうれん草など
・ビタミンC…レモン、ミカン、ブロッコリー、コマツナなど
・ビタミンE…アーモンド、ほうれん草、かぼちゃ、イワシなど
・ポリフェノール…ブルーベリー、ココア、緑茶、リンゴ、大豆など
・フラボノイド…レタス、春菊、玉ねぎ、大豆、緑茶など

太らない体を作る食生活

「糖」は体の大切なエネルギーですが、摂りすぎると「糖化」という悪い作用が過剰に働きます。
血管に糖化+酸化で動脈硬化が発生しやすくなります。
皮膚のコラーゲンが糖化すると、肌の弾力が無くなり一気に老けた印象になります。

糖化防止の食生活

・一気に大量に食べない
 1回の食事時間は最低でも20分を目安にしましょう。
 食事に時間をかけると食事中に満腹サインを受け取ることができます。
 (糖が血液で脳に運ばれ、満腹のサインが出るまでに約20分かかります)


・十分に時間を置いて食べる
 6時間おきに3食をとるのが理想です。
 寝る3時間前には夕食を終えて、少し空腹感を覚えて寝ましょう。

・糖質の多い食材はたくさん食べない
 穀類、イモ類、甘いものは食べる量に気を付けましょう。
 

若返りホルモンDHEAの分泌を促す

DHEAは男性ホルモンの材料です。
男性ホルモンは筋肉量や筋力の維持に関わっています。
男性ホルモンの減少が続くと、筋肉がやせてお腹周りの脂肪が増えやすい体型になってしまいます。

DHEAとは

・DHEAは「デヒドロエビアンドロステロン」というホルモン
・男性ホルモンや女性ホルモンに材料になる
・筋力、免疫力、意欲、行動力の維持
・骨粗しょう症の予防

DHEAの血中濃度が下がると出る3つの症状

・筋肉量、筋力が低下する
・免疫力が低下する
・意欲が低下する

DHEAのレベルを維持する4つの習慣

・良い睡眠を確保する
・寝る前には糖質やアルコールを過度にとらない
・軽い運動をする
・血液中のDHEAレベルを維持する

軽い運動をする

太らない体を作る習慣で始めたいのが軽い運動です。
この本では
「有酸素運動」
「筋力トレーニング」
「ストレッチ」
を紹介しています。

有酸素運動

・酸素を体に取り込み、体内の糖質や脂肪をエネルギーとして消費する運動
・有酸素運動によって全身持久力が高まる
・もっとも手軽で効果的なのは「歩く」
・1日10分を細切れ3回、週4回
・1分間100メートルのペースで続ける

筋力トレーニング

・基礎代謝量を増やすのに効果的
・若返りホルモンDHEAの分泌をよくする
・成長ホルモンの分泌もよくする
・軽い簡単なトレーニングを続ける
・脚を鍛えるスクワット
・腕を鍛える膝つき腕立て伏せ
・お尻を鍛えるバックキック

ストレッチ

・ストレッチでゆっくり筋肉を伸ばす
・有酸素運動や筋肉トレーニングの前後にもストレッチは欠かせない
・事前のストレッチは体を温め、筋肉や関節をほぐす
・事後のストレッチは筋肉の血流をよくして、疲労回復を早める
・反動をつけずに20秒以上かけてゆっくり伸ばす
・伸ばす筋肉や部位を意識して行う
・痛みがなく、気持ちがよい程度に伸ばす
・呼吸を止めずにゆっくりと深い呼吸をしながら行う

まとめ

太らない体になるためには
◆老廃物を排泄する
 間食をやめて食事と食事の間を6時間あけて排泄の機能を高める
 汗をかく
 抗酸化物質を摂る
◆糖化防止の食生活をする
 時間をかけて食べる
 十分に時間をあけて食べる
 糖質の多い食材を食べ過ぎない
◆若返りホルモンDHEAの分泌を促す
 DHEAの分泌は筋力、免疫力、意欲に関係する
 良い睡眠をとり、寝る前に糖質を摂らず、軽い運動をする
◆軽い運動をする
 有酸素運動、筋トレ、ストレッチ

【感想】
この本は文庫本でも出ているのですが、単行本の方がカラーで図もたくさんあるので、よりわかりやすくなっています。
実は単行本の方が値段も安いのでこちらがおススメです。

食事の摂り方などは本によっては、こまめにちょこちょこ食べる
といった方法を勧めているものもあるので、自分のライフスタイルにあった食べ方が良いでしょう。

老化度のチェックシートもあるので、まずは自分の老化度を知り、運動や食事もできるところから無理なく初めていくのがおススメです。

なんども「続ける」という言葉が出てきました。
続けるための工夫が必要です。

【目次】
1章 あなたの人生、今日からの「1週間」が勝負です!
2章 すぐ効く! 太らない「歩き方」「体の動かし方」
3章 脂肪・贅肉を一気に捨てる「体の大掃除」
4章 忙しい人・疲れやすい人「熟睡・快眠のコツ」
5章 「体にいいこと」だけをやりなさい!

三笠書房
127ページ
2014年1月20日第1刷発行
本体価格 552円
電子書籍あり

著者 満尾正
満尾クリニック院長/日本キレーション協会代表/米国先端医療学会理事/日本抗加齢医学会理事(2015年‐2017年)/医学博士。
1957年横浜生まれ。
北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。
ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。
米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師

著書
「60代からの強い体のつくり方」
「125歳まで元気に生きる」
「体に毒をためない食べ方」など多数

シークレットペイン 夜去医療刑務所・南病舎 前川ほまれ

「今日は失格でも、明日合格ならいいじゃないですか」by 愛内

【あらすじ】
精神科医の工藤は週に二日、夜去医療刑務所に勤務することになった。
初日から同じ精神科医の神崎に連れられて、観察室から回ることになった。
観察室は一般質とは違う特別な造りになっている。

工藤は受刑者を番号で呼び、自分の名を名乗らず診察をする。
一方神崎は受刑者の名前を呼び、冗談を交えながら診察をしていく。
観察室には工藤の幼なじみの滝沢が居た。
滝沢は殺人を犯して服役中で自殺企図があるため夜去に送られてきた。

あくまでも決められた期間内に淡々と仕事をこなす工藤。
北病舎には内科医の愛内が居て工藤を献香式…亡くなった受刑者を弔う式に誘う。
仕方なく参加する工藤。
愛内は緩和ケアもしているが工藤には受刑者に緩和ケアは必要ないと言い切る。

そんな工藤だが日が経つうちに滝沢との小学生時代の思い出がよみがえり少しずつ会話をするようになる。
ある日、神崎から作業療法を見に行くように言われる。
作業療法にはダウン症や自閉症スペクトラムや高齢者の受刑者4名が作業をしていた。
工藤はそのうちの一人と深海魚について話をするが、ダウン症の二人が喧嘩を始めたのをきっかけにパニックになってしまう。
このことをきっかけに刑務官の西川と話をするようになる。

診察をするうちに滝沢が癌に罹っていることがわかる。
心が揺れる工藤。
滝沢は工藤に「泉屋のいなり寿司が食いてぇ」とつぶやく。
工藤は滝沢の代わりに松島にある泉屋へ向かう…。

【感想】
率直な感想として軽いあまり真面目ではない感じで書かれている神崎が実は患者に寄り添った医療を展開したり、主人公の工藤が名を名乗らず受刑者を番号で呼び、冷徹な情に溺れない設定なのに、急に人間味溢れる医者に変わった感が否めないのが残念。
工藤の変化はもう少し丁寧に描いても良かったのではないだろうか?

とはいえ前半には医療刑務所の実態が所長の相沢によって語られる。
一人あたりかかる経費は400万円。
それが全て税金で賄われている。
矯正医療に関する否定的なコラムの話も出てくるが、そもそも何故否定的になるのか。
それは今、国民が医者にかかると3割を負担しなければならない。
自分達は有料なのに罪を犯した受刑者には無料で提供されることへの反発なのではないだろうか。

以前はサラリーマンなら初診時に800円払えば後は無料。
高齢者も老人医療証があれば無料だった。
それが今は個人の負担額がどんどん増えているために受刑者が無料であることに反対する人がいる。

物語の中盤には刑務所には高齢者や知的障がい者が増えていることが書かれている。
そ故か?
一般社会では就職もできず住むところも無く、出所時に渡されたお金もすぐに無くなるため、窃盗で捕まり刑務所に戻ってくるのだ。
工藤を通して今の刑務所の実情や医療刑務所の実態が描かれ骨太な内容にもなっている。

おススメ度
★★★

ポプラ社
381ページ
2019年9月19日第1刷発行
本体価格 1700円
電子書籍あり

著者 前川ほまれ
1986年生まれ。宮城県出身。
看護師として働くかたわら、小説を書き始める。
2017年、「跡を消す」で、第7回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。

前川ほまれ ツイッター

空は逃げない まはら三桃

「森羅万象の呼吸を味方につける」by 光徳

とある大学の陸上部。
棒高跳びの練習をするA太郎とB太郎。
A太郎こと佐藤倫太郎とB太郎こと佐藤林太郎。
AとBは血液型に由来している。

B太郎は高校の時から棒高跳びで好記録を出していて陸上界でも注目の的。
そんなB太郎を羨む気持ちもあるA太郎だが、二人は仲がいい。
芸術学部の絵怜奈が、いつもスケッチブックを持ち二人の跳ぶ姿を描いている。

時は現代。
リンタロウは車いす生活になり写真家として修行中。
もう一人のリンタロウは母校の大学で陸上部、それも棒高跳びの鬼コーチ。
絵怜奈はメキシコで日本人観光客を観光案内して暮らしている。

大学時代のある日、絵怜奈は「自分も棒高跳びをする」と言い出す。
全くの初心者で鉄棒で逆上がりすらできない絵怜奈には無理とA太郎もB太郎も諭すが、絵怜奈はじゃあ…と逆上がりの練習から始める。

陸上競技大会でB太郎は空に吸い込まれる様な跳躍をする。
見ていた絵怜奈は思わずB太郎が心配になり駈け出そうとするがA太郎に止められる。
B太郎は無事に着地したのだ。
絵怜奈は落ち着きA太郎に小学生の頃に友達が自ら命を絶った話を始める。
B太郎の跳躍と過去の出来事が絵怜奈の中でリンクしてしまったのだ。

写真家のリンタロウはアシスタントのコウがマラソン大会に出るのに誘われる。
車いす部門もあるのだ。
リンタロウは選手として登録するよりランナーを撮影することにした。
大会にはリンタロウの大学の後輩が出場することを知り、被写体になってもらうために母校を訪れる。
コーチのリンタロウとも久しぶりに再会。

大学時代にB太郎は久しぶりに師匠に会いに行く。
有名な陶芸家である光徳は滅多に人前には出ない。
光徳は竹のポールで刑務所の壁を飛び越えた逸話があるのだ。
B太郎はA太郎を誘い、その話を聞いた絵怜奈も着いてくる。
3人は光徳の話を聞き、帰りには絵怜奈がどうしてもと欲しがり竹のポールを持って帰ることになった。
A太郎は竹のポールで練習を始め手ごたえを感じ、新しい練習方法を思いついた。

リンタロウが撮った写真は写真家の間では有名な賞を受賞する。
そこで大学時代から初めてA太郎B太郎絵怜奈が揃って顔を合わすこととなった。

Wikipediaより引用

【感想】
最近、よくある技法?ですが、過去の話と現代の話が行き来します。
A太郎とB太郎、車いすの写真家になったのは?
陸上部のコーチになったのは?
読者にどちらがA太郎かB太郎か想像して読ませる設定になっています。
著者も「漫画や映像ではできそうにない仕掛けをしました」とウエブサイトで言っていました。


小説丸 この本私が書きました まはら三桃



いつも一緒だった3人が自分たちの道を大学在学中から進んで行くきっかけになったのは、光徳との出会いです。
人生には「自分の人生の進む方向が決まる」出会いがあります。
小説の3人は大学生の時。
その時には気付かなくても、後になって振り返ると「あの時!!」と思えます。

私自身も「自分の人生の進む方向が決まる」出会いがありました。
それも50歳目前で(笑)
それまでは、ただただ目の前の仕事や家事をこなす毎日でした。
「定年になったら犬を飼って、散歩したいなぁ」ぐらいしか思っていなかったのです。

49歳で次々と新しい出会いがあり、小学生の頃に思っていた夢が実現しました。
「ラジオのDJになりたい」「記者になりたい」
40年の歳月でテクノロジーが発達し、その頃だと「DJ」も「記者」も一握りの人しか慣れませんでしたが、今はネットを通じて可能となりました。

人生の先輩、一歩先を進んでいる人、何事か成し遂げている人、自分より先を行っている人との出会いによって自分の人生を切り開くことができる可能性があります。
人生100年時代も到来します。
何歳になっても夢を持ち続けること。
一歩踏み出す勇気を持つこと。
この小説を読んで、そんな事を思いました。

おススメ度
★★★★

小学館
226ページ
2019年9月11日第1刷発行
本体価格 1400円
電子書籍あり

著者 まはら三桃(まはらみと)
1966年、福岡県北九州市生まれ。
2005年、講談社児童文学新人賞佳作を受賞。
『鉄のしぶきがはねる』(講談社)で2011年度坪田譲治文学賞、第四回JBBY賞を受賞。

著書
『白をつなぐ』 など

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