噛みあわない会話と、ある過去について 辻村深月

「今考えると、お母さんって、その家のルールそのものなんだよね」by スミちゃん

2018年の本屋大賞を受賞した、辻村深月さんの受賞後すぐの短編集です。

【あらすじ】
ヒロちゃんとスミちゃんは同じ小学校の教師。
ヒロちゃんが教師として初めて赴任した小学校にすでに教師としてスミちゃんは居た。
仲良くなってお互いに働く学校が変わっても、お互いの家を行き来する仲だった。
今回、スミちゃんが転勤に伴い引っ越しをすることになり、手伝いにきたのだった。

ヒロちゃんはスミちゃんに担任の母親について相談をしていた。
真面目で子どもにとって良いと思うことは親の権限で行うお母さん。
テレビやゲームを殆どさせず、ジュースもチョコレートも禁止。
「子どもにはちゃんと親には親、子どもは子ども、という考え方を早い段階からわからせてきました」と懇談でも発言する。
悪い人ではなく、真面目で本音で生きている、このお母さんは懇談会で他のお母さん達が建前で話をしているとは、微塵も思っていないのだ。

話を聞いていたスミちゃんは事もなげに言った。
「うーん。まあ、大丈夫じゃない? そういうお母さんはきっとそのうちいなくなるよ」
「―いなくなる?」
「うん、いなくなる。そういう人は絶対変わらないから、だからいなくなってもらうしかないんだよね」

アルバムに貼ってあった成人式の写真から、スミちゃんとお母さんについての話が始まった。
それは、とても信じられない話だった。
―「ママ・はは」より

【感想】
「ママ・はは」はファンタジーというよりホラーに近い感覚でした。
4つの短編が掲載されていますが、どれも「無意識に発した言葉」から時間を経たそれぞれの人間関係が浮き彫りになります。

「そんなつもりはなかった」言葉を発した側の気持ちです。
でも、言われた側は傷つき、いつまでも傷は心の中でかさぶたを作って残っているのです。

あらすじを紹介した「ママ・はは」は母親の立場として読んでドキッとしました。
それが冒頭に書いた「今考えると、お母さんって、その家のルールそのものなんだよね」というフレーズです。

わが家はシングルなので私の意見が絶対でした…子どもが小さい時は。
今、成人した子ども達と高校生の末っ子と一緒に暮らしていますが、もはや私のあいまいなルールは通用しません。
反抗され、言い負かされ、立場が逆転したりします。
勝手に私が判断するのではなく、相談して物事を決める段階なのだ…とようやく気が付きました。
そんな時だったので、この一文には心にグサッと刺さったのです。

どの話もありそうで、直ぐに読めてしまいました。
読んだ後にモヤモヤするか、スッキリするかは自分がどちら側に居たかによるのでは?
言う側の方はモヤモヤ
言われた側の方はスッキリ
…かもしれません。

おススメ度
★★★

【目次】
ナベちゃんのヨメ
パッとしない子
ママ・はは
早穂とゆかり

講談社
206ページ
2018年6月12日第1刷発行
本体価格 1500円
電子書籍あり

著者 辻村深月
1980(昭和55)年生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
2004(平成16)年に『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞してデビュー。『ツナグ』で吉川英治文学新人賞を、『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。

著書
『ぼくのメジャースプーン』
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
『オーダーメイド殺人クラブ』
『水底フェスタ』
『盲目的な恋と友情』など。

最後まで読んで頂きありがとうございます。
当ブログの記事があなたの読書のお役に立てれば幸いです。
また読みに来ていただけると嬉しいです。

白い犬とワルツを テリー・ケイ



今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマは「あなたの号泣本」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから

https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/08/9-2_honsuki-kurabuheyokoso_20190807.mp3

かおる文庫のおすすめブックコーナー

北海道在住、ブックコーディネーターのかーるさんが
おススメする本を紹介します。

白い犬とワルツを
テリー・ケイ
新潮社

◎あらすじ
長年つれそった妻に先立たれたサム。
独り暮らしを始めたとき、どこからかやってきた白い犬。
サム以外の目に見えない犬は彼の暮らしに寄り添っていく。
実直な老人の晩年と愛の形を描く美しい小説。


◎みどころ
物語は主人公サムの妻が亡くなるところから始まります。
愛する人をなくす悲しみにくれながらも、子どもたちが父を心配してくれるさまに感謝を覚えるサム。

それでもできる限り自分の力でやっていこうと決めてぎこちない一人暮らしを始めます。
そしてどこからか現れた白い犬がいつのまにか加わり、一人と一匹は淡々と寄り添います。

足腰を痛めて歩行器なしでは歩けないサム。
子どもたちや知人は、そこに不安を感じますが、本人は今できることに淡々とチャレンジしていきます。

歩行器に寄りかかる白い犬とダンスを踊るさまは、年齢や体の限界に縛られる固定概念を壊してくれます。
年取ることや連れ合いを失くすことの寂しさと、人生で作り上げたもの、今あるものへの感謝を感じさせる名作です。

何よりも素晴らしいのは、サムが亡き妻を愛し、子どもや孫たち、周りの人々に愛されていることです。
いつかくる老後、愛に満たされて良かったと思える人生を過ごしたいですね。

2001年のミリオンセラー作品。
東映で映画化
出演: 仲代達矢, 若村麻由美, 南果歩, 藤村志保



著者 テリー・ケイ 81歳
1938年、米国ジョージア州生れ。ウエスト・ジョージア大学からラグレインジュ大学卒。
地元の雑誌に映画や演劇の批評を寄稿したりしたあと、処女作『明りがついた年』を発表し、『白い犬とワルツを』で全米に知られる作家となった。
エモリー大学で創作の指導も行う。現在ジョージア州アセンズに愛妻と住んでいる。

カシコギ  チョ・チャンイン

今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマは「あなたの号泣本」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから

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ラジオネーム 冷麺マン4世

チョ・チャンイン「カシコギ」

① この本のオススメどころ

変わった習性を持った、カシコギという魚がいます。
母カシコギは子どもを産むと家族を去り、残った、父カシコギが、食べず眠らずで外敵から子どもを守ります。
やがて子どもが成長すると、父は岩に頭を打ち付け死んでしまうのだそうです。

本書は、それを人間の家族に当てはめた小説です。
作中に出てくる言葉は、折に触れ思い出しては、自分を戒めています。
「あなたが虚しく過ごした今日は
昨日、死んでいったものたちが
あんなにも生きたいと願った明日」

② この本との出会い

大学時代に、「文章演習」の恩師が、この作者の二作目(灯台守)を翻訳した際に、紹介してくださったのが、出会いのきっかけです。

まず、一読して、涙が止まらないどころか、嗚咽からの号泣コース。
告白すれば、映画でも小説でも泣いたことがなかったので、せっかくの涙が勿体ないと思い、もう一度、ラスト付近を読み直し、もう一度、号泣しちゃいました。
ちなみに、再読でも、やはり泣けました。きちんと、泣いたのは、この、1冊だけです。

③ 直近の号泣した出来事

そんなわけで直近というには、あまりに昔の20年前で、「カシコギ」を読んだとき、となりますかね(笑)
普段、泣くことがないので?!
あ。夫婦喧嘩のあとの、仲直りかな。なんちゃって?
号泣する準備ができたら、ハンカチとカシコギを手に、ぜひお試し下さい。

【あらすじ】
白血病で入院中の息子、タウムを必死で看病する詩人のチョン。
彼は幼い時、母親は出奔、その後父親から心中を持ちかけられるという悲惨な過去をもつ。

それだけに家庭と息子への思いは強かったが、妻は現実に目覚め、自らの望みをかなえるために大学の恩師のもとに走り、フランスに発ってしまう。

世間とうまく折り合えず、不況で仕事も失い、それでもひとり、息子のために必死に尽くすチョン。
終わりのない過酷な闘病のなかで、タウムは言う。

「パパ、あとどのくらい苦しめば死ねるの。こんなに苦しんだんだから、もう死んでもいいじゃない」

だが、奇跡的にタウムに適合する骨髄ドナーが見つかった。
絶望に沈む父と子に一筋の光が差す。しかし……


著者 チョ・チャンイン
韓国の中央大学及び同大学院で文学を専攻。
雑誌社、新聞社の記者として勤務した後、作家に転身。
2000年父と息子の愛情をテーマとした「カシコギ」を発表。
200万部のベストセラーとなり、テレビドラマ化され、劇場でもロングラン上演を果たすなど“カシコギ・シンドローム”を巻き起こした。
2011年同作は日本で「グッドライフ」としてテレビドラマ化される。

ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~ 十三湊



今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマは「おススメの美味しい本」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらからできます。

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かおる文庫のおすすめブックコーナー

北海道在住のブックコーディネーター 
かーるさんが本を紹介するコーナーです。
今回は「おススメの美味しい本」

以前ご紹介したことがあるのですが、大好きな本なので紹介内容を追記しました。

ちどり亭にようこそ
~京都の小さなお弁当屋さん~
著者:十三湊 とさ みなと
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス

◎あらすじ
京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」。
美人店主花柚(はなゆ)の作るお弁当を食べるとどんな人も笑顔がこぼれます。
花柚と彼女を囲む人々の美味しくて心温まる人間ドラマ。

◎みどころ
京都の四季を背景に、料理を愛する人々の日常とちょっとした事件がほのぼのと描かれます。

主人公の彗太(けいた)はアルバイトの大学生。
飲み会のあとに行き倒れ、花柚に拾われたのが出会いです。
二日酔いで弱った体に、花柚の料理はじわーっと染み渡り、それがきっかけで自炊を始めてついには店で働くことになります。

店主の花柚は24歳。
毎週見合いするのが趣味の旧家のお嬢様。
将来の旦那様のため磨いた料理の腕は、
今のところお弁当屋さんでいかされています。

このお話の序盤にでてくるお弁当の説明はとても素敵です。
数のそろった日本のお弁当は、世界でも特殊なコンパクトなのに完結している食事だそうです。
花柚の料理の先生曰く、お弁当は家族が遠く離れたところで食べることを考えて作られた「持ち運べる家庭」なのです。

届けたい誰かのために作るものは、それだけで価値がありますね。
何があってもゆるがないような、軸があるものをやってみたいと料理を仕事に選んだ花柚。
季節にあわせた丁寧な料理は、日々の営みに忘れそうになる食事への感謝を思い出させてくれます。

たとえ人生を大きく変えられなくても、
そこに込められた想いは人を動かす原動力になるのです。
四季折々の日本の美しさ、料理の素晴らしさを生き生きと伝えてくれる本です。

気に入ったら続編もあります。よりお楽しみいただけますよ。

著者 十三湊
『C.S.T.情報通信保安庁警備部』で第20回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”を受賞して作家デビュー。
『ちどり亭にようこそ』が第10回エキナカ書店大賞を受賞し、人気を博す

著書
「夏のおわりのおくりもの」
「今朝もどこかでサンドイッチを」
「彗星の夜と幸福な日」ついに、はなゆさん結婚 

卵をめぐる祖父の戦争 デイヴィッド・ベニオフ



今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマは「上半期に読んだ、私のおススメ本」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらからできます。

https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/06/7-4_honsuki-club_20190619.mp3

テーマ「上半期おススメの1冊」

ラジオネーム シマリス

デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」

ハヤカワ文庫

469ページ
2011年12月5日第1刷発行
本体価格
電子書籍あり

① この本のおすすめどころ
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」という1行目に、最初から魅了されまして、読めば読むほど引き込まれ、気がついたら笑ったりハラハラしたりジーンときたり呆れたり。。。
文庫で500ページ近くある長編なんですが、もうひたすら主人公の(腕力も体力もなく、容姿に自信もなく、恋の経験もない)若者と、ひょんなことから出会った脱走兵(文学と下ネタが好きな、碧眼金髪の美青年)が、どうやってナチス包囲化のレニングラードを生き延びていくか、目が離せなくなって一気読みしてしまいました。
読みどころは、この二人のやり取り。
おもしろくて深い、最高の青春小説です。

② この本との出会い
福岡か熊本か、どこかの翻訳ミステリ読書会の課題本になっていたんです。
日程の都合がつかず参加できないとわかっていながらも、課題本はいつか読みたいと思って買ってました。
仕事で疲れて、気分転換にと開いてみたのが読み始めたキッカケです。

③ 今年一番のできごと
悲しいかな、とりたてて言うことは(まだ)起きてないです。(笑)
しいてあげれば、体組成年齢(たいそせい)がちょっぴり若返ったこと。

週1回の卓球で汗をかいているお陰ですね。

映画.comより引用

【あらすじ】
作家のデイヴィッドは、祖父のレフが戦時下に体験した冒険を取材していた。
ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた。
軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された彼は、饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索に従事することに。
だが、この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?――戦争の愚かさと、逆境に抗ってたくましく生きる若者たちの友情と冒険を描く、歴史エンターテインメントの傑作

著者 デイヴィッド・ベニオフ
1970年、ニューヨーク生まれ。
作家、脚本家。
ダートマス大学を卒業後、アイルランドに留学して、ダブリン大学の大学院でイギリス文学、アイルランド文学を専攻。
邦訳に『25時』『99999(ナインズ)』がある。
映画の脚本家としても著名で、自作『25時』の映画版やブラッド・ピット主演「トロイ」を手がけた 


ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~ 十三湊

「大事なのは自分で自分の生活をオーガナイズすることよ」by 花柚

【あらすじ】
花柚は将来の旦那さまのために、料理を習い始めたのは小学生の時。
旧家のお嬢様の花柚が、習った料理で京都の姉小路通沿いに、仕出しのお弁当屋「ちどり亭」を始めた花柚は24歳。
家を継ぐはずの兄が家出をしたので、花柚はお婿さんを迎えるべく毎週お見合いをしているが、良縁には恵まれていない。

「ちどり亭」でアルバイトの大学生の彗太は、花柚に料理を教わり自分で自炊が出来る様になった。
「ちどり亭」には花柚の従妹の美津彦が居候の様に入り浸っている。
美津彦の祖母が花柚の料理の先生だった。

ある日、花柚の元許嫁の総一郎が「ちどり亭」に仕出し弁当8人分を頼みに来た。
総一郎は京都府庁に勤める公務員。
府のプロジェクトを担当している総一郎は、書道家の紫香泰山の手を借りたいと考えていて、その交渉のための席を設けた。
その時に出す弁当を「ちどり亭」に打診してきたのだ。
弁当がそのプロジェクトを決めると言っても過言ではない。
花柚と彗太、美津彦は泰山が出しているエッセイや花柚のお見合い相手のコネを使い、泰山が好きな食べ物を調べる。

実は泰山は愛妻家で次の交渉時も妻が同席する。
その妻が好きな食べ物が「黄色くて、京都には無く、物産展で買えて食べた後には残骸が出る」泰山曰く「黄色い麻薬」である。
山形県の出身と聞き、さらに調べる三人。

「黄色い麻薬」とはどんな食べ物なのか?
総一郎のプロジェクトに泰山は参加するのか?
そして、花柚と総一郎の関係はどうなっていくのか???

【感想】
料理に真摯に向き合う花柚、その花柚から料理を教わる彗太と共に好感が持てます。
お弁当の注文した相手の状況を考えて、内容を決める花柚に相手があっての料理だと教えられます。
食材の旬や季節感も大事にしていて、必ず七十二候で暦が出てきます。
日本ならではの季節の呼び名やその意味も知ることができます。

お話は連作短編集になっていて、天ぷらをサクサクにあげるコツやアレルギーがある子供のために見栄えがするお弁当の工夫の仕方などそれぞれにちょっとした料理のコツが載っているところが主婦としては嬉しいところです。
読むと家族のために、もう少し気持ちをこめて作ろうと思う1冊です。

【目次】
1.桜始開、花見といつかのオムライス
2.玄鳥至、「黄色い麻薬」とお礼状
3.虹始見、飾り切りと青菜のおひたし
4.牡丹華、だし巻き卵と献立帖
5.紅花栄、練習帖と最後のお弁当

KADOKAWAメディアワークス文庫
311ページ
2016年7月23日第1刷発行
本体価格 610円
電子書籍あり

著者 十三 湊(とさ みなと)
『C.S.T.』で第20回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”を受賞して作家デビュー。
『ちどり亭にようこそ』が第10回エキナカ書店大賞を受賞し、人気を博す。著書
「成巌寺せんねん食堂 おいしい料理と食えないお坊さん」など

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