伴走者 浅生鴨

「走っている間だけ、俺は自由になれるような気がするんだ」by内田

【あらすじ】
内田健二は元サッカー選手。
20代半ばでヨーロッパに突如として現れ、大手のクラブチームと契約。
スター選手として頂点に駆け上がりつつあった頃にバイク事故いあう。

一命を取り留め、賢明にリハビリをし身体は回復したが、
二度手術を行ったが視力は戻らず失明したままだった。
人生に失望し、周りにあたりちらし自殺を何度か考えたが死ねなかった。
内田はそこでマラソンと出会う。

視力障がい者がマラソンをするには「伴走者」が必要だ。
伴走者は選手が安心して全力を出せるように、
選手の目の代わりとなって周囲の状況や方向を伝えたり
ペース配分やタイム管理をする。

内田は伴走者に淡島を指名した。
淡島はかつては実業団でマラソンを走っていた。
今は実業団は辞めて仕事をしながらもマラソンは続けている。
淡島の走りは試合で勝つことよりも狙い通りの結果を出すことにこだわっていた。
機械の様に心拍数も含めて自分の身体を完全にコントロールし狙ったタイムを出す。
ただし、それは同じレベルの選手を潰すことにはなるが
レベルが上の選手を抜きにかかることはしない。
その機械的でかつ冷静な走りが内田がメダルを取るには伴走者として最適なのだ。

伴走者はただ走るだけではない。
コースの道路の状況やどちらに曲がるのか、段差は上りか下りか。
見えない相手に事細かに言葉で説明するのだ。
そのため通常、伴走者は最低でも2人で交代して走る。
内田の伴走者は淡島と大学生の松浦の2人だ。

金メダル獲得を目指して南国の小さな島で
初めて行われるマラソン大会に出場することになった。
ここでメダルを取れば確実にマラソンランナーとして
次のパラリンピックの切符を手にすることができる。

ところが前日に松浦が腸炎にかかった。
どうしてもがまんできなくて、カップラーメンを食べたのが原因だった。
やむなく伴走者は淡島一人で行うことになった。

レースが始まる。
内田・淡島コンビはメダルを手にすることができるのか???

【感想】
この本には今、紹介した夏のマラソン編と冬のアルペンスキー編があります。
冬のアルペンスキー編の主人公は「晴」という盲学校に通う高校生。
彼女は先天性の全盲です。
ハルの伴走者はスキー部がある会社の営業部員立川。

2つの話の設定は2020年のパラリンピック以降となっています。
どちらも予想外の展開になっていて、引き込まれて一気に読み切りました。

マラソンの選手と伴走者は輪になっているわずか50cmほどのロープで繋がっています。
走る時は歩幅も合わせてランナーと伴走者が「一心同体」となる…。
この本を読んで、伴走者の役割りを知ることができました。

サッカーをやっていた時のようにパラリンピックでメダルを取って表舞台にもう一度立ちたい内田。
自分で管理した通りに走ることで記録を作りたい淡島。
話はメダルを狙った試合の進行と共に過去に遡り、内田と淡島の出会いから現在に至るまでを交互にしながら進んでいきます。

内田がマラソンを走る理由にメダルを取りたいのもありますが、
こんなセリフがあります。
「一人で杖をついて歩くのは今でも怖い。
でも長距離を走っていると、恐怖かふっと消える瞬間があるんだよ」

この小説は2020年3月15日の夜7時から、
BS-TBSでドラマで放送されました。
内田役を市原隼人さん、淡島役を吉沢悠(ひさし)さんのダブル主演です。
このドラマに原作者の浅生鴨さんがコメントを寄せています。
(BS-TBSのサイトから引用)

一本のロープで繋がれるのは、一筋縄ではいかない二人の男たち。
それぞれ複雑で面倒くさい性格を持つこの二人。
淡島の抱える内面の葛藤を吉沢さんはどう見せるのか、
目の演技が使えない内田を市原さんはどう演じるのか。
ドラママニアとしては、そんなところも気になります。


余談ですがアルペンスキーの伴走者は先に滑りスピーカーで雪の状態やコースを説明します。
なので競技者は見えないままスキーを滑ることになるのです。
マラソンもですが、伴走者との信頼関係が無いと一緒に滑ることができません。
冬・スキー編で印象に残ったのは、霧の中で前が見えない中、ハルが立川の伴走者として一緒に滑るシーンです。

ここで立川は「選手に安心感を与えるのが伴走者の役割りだ」と実感します。
ハルの言葉「弱さのない人は強くなれないんですよ」が心にしみます。

この本を読むと、マラソンとアルペンスキーだけですが
障害者スポーツのそれも選手と伴走者の関係性や役割りがよくわかります。
東京パラリンピックを期にぜひ読んでみてください。

文庫版表紙

329ページ
2018年03月01日第1刷発行
講談社
本体価格 1400円
文庫、電子書籍あり


著者 浅生鴨
1971(昭和46)年、兵庫県生れ。
作家、広告プランナー。
NHK職員時代の2009(平成21)年に開設した広報局Twitter「@NHK_PR」が、公式アカウントらしからぬ「ユルい」ツイートで人気を呼び、中の人1号として大きな話題になる。2014年にNHKを退職し、2019年11月現在は執筆活動を中心に広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手がけている。

著書
『中の人などいない』『アグニオン』『猫たちの色メガネ』『伴走者』などがある。

人生は並盛で 小野寺史宜

「とりあえず牛丼でも食うか」by 竹志

たまに行く田村書店には古書コーナーがあります。
行くと必ず立ち寄り心惹かれる本は無いかと探すのです。
この本は題名の「人生は並盛で」と帯に書いてあった
「幸せのどんぶり一丁」に惹かれて購入しました。

太った女子大生日和VS若作りで男好きの恵

恵は4歳になる息子を姑に預けて牛丼屋でパートをしている。
仕事は基本手抜き。
面倒な仕事は理系の女子大学生で太っちょの日和に押し付け
店長が居る時や気に入った若い男性とペアだと、嫌なトイレ掃除も進んでやっちゃう。

恵はバイトの数馬と不倫をしている。
数馬がバイトを辞めることを聞いて、次は周吾かなと次のターゲットを決める恵。

ミスが多い準一が、テキパキと仕事をこなす日和に告白するが断られる。
そのことが面白くない恵は日和に準一から言い寄られるている様なことを話す。
もちろん嘘。
日和も嘘だとわかっているが、自分勝手で仕事も手抜きな恵が許せず
ある計画を実行する。

5年後の約束

竹志はレストランで突然、恋人のすみれに別れ話を切り出す。
突然の別れ話に怒ったすみれは竹志にカクテルをかけて店から出る。

竹志には5年前に別れた「夏」が居た。
お互いに忙しくて、段々会えなくなり別れた。
その時に5年後の23時55分に駅前で会おうと約束して…。
すみれに別れ話を切り出したのはちょうど5年目の約束の日だったのだ。

同じレストランのボーイ京平はワインをお客さんの服にこぼし
皿をよく割る。
そのうえワインをこぼした年上の女性と不倫中。
勤務態度を店長に注意され「皿は割れるものだ」と反論する京平。
態度をあらためない京平に店長はクビを言い渡す。
捨て台詞を吐いて店を出た京平は「モデルガンで店長をいつか撃ってやる」
と心に決める。

竹志が約束の場所に行くが、そこに夏が現れることはなかった。

ひき逃げ事件

夏は誘われて周吾と観覧車に乗っていた。
周吾にしつこく誘われるが夏は断った。
この日、夏は仕事を休んでバイクを走らせ考え事をしていた。
周吾と別れた後、バイクにまたがりまた走り出す。
5年前の約束を思い出しながら…。

同じ日、役所に勤める美哉は大学時代の友人
山野井と須賀と三人でバーで飲んでいた。
当時、美哉は山野井と須賀とも時期は違うがつき合っていた。
今は違う男性と結婚し、こうしてたまに三人で会って飲んでいる。

帰り道、須賀は山野井の車に乗り込み一緒に帰る。
須賀は山野井に200万円の借金を申し込むが断られる。
山野井はアクセルを踏み込みスピードを上げ
あやうく自転車を引きそうになる。
間一髪で自転車が止まったが、次の角でバイクをひいてしまう。
ブレーキをかけなかったのでそのまま逃げる山野井。
須賀は山野井から200万円を借りることができた。

牛丼屋に強盗現る

5年前の約束から1年、竹志はまた約束の時間に駅前にやってきた。
もちろん夏は現れない。
終電を乗り過ごし、行きつけの牛丼屋に入る。
日和と準一がシフトに入っていた。
竹志は日和の働きぶりに好感を持っていた。
節度のある接客と綺麗な盛り方。
そんなことを思っていると、ふらりと入ってきた男がレジカウンターに向かう。

男はナイフを取り出し日和に向かってボソボソと何か言っている。
「あの、これでどうにか…」
「いや何ていうかほら。そのほんとに悪いんだけど」
従業員のバックスペースに通じるドアから京平が銃を手にして出てきた。

【感想】

3つの短編小説です。
全く別の次元で起こっている事が、全てどこかで繋がっている構成に驚きました。

最初の恵の話は年のサバは読むし、若い男に媚びを売るし
仕事はしないのに人の悪口だけは散々言うキャラです。
そのうえ子どもへの愛情は感じられず
「私の人生、こんなんじゃなかった」感満載です。
この小説のどこが幸せのどんぶり一丁なんだろう???
と、途中で読むのを止めようかなと思ったほどです。

2つめの話は、ちょっとした所でこの人とこの人とが繋がってる !?
とそのまま最後まで一気読み。

記憶力がいまひとつの人は登場人物をメモるか、もしくはフセンを貼るのをおススメします。
各小説を飛び越えて人間関係が繋がりますよ。
ひょっとしてこの人は…あの時に出ていたあの人???

日和が恵に対してとった行動は?
ひき逃げ事件や強盗の結末は?
きになった方はぜひ読んでみてください。
最後はちょっとホッコリしました。

【目次】

肉蠅え
そんな一つの環
弱盗


327ページ
実業之日本社文庫
2019年2月15日第1刷発行
本体価格 667円
電子書籍あり


著者 小野寺史宜
1968(昭和43)年、千葉県生れ。
2006 (平成18)年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞。
2008年、『ROCKER』でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。

著書
『みつばの郵便屋さん』シリーズ、
『片見里、二代目坊主と草食男子の不器用リベンジ』
『ホケツ!』
『その愛の程度』
『本日も教官なり』
『ひと』などがある。

「家庭教師は知っている」 青柳碧人

「子どもが守られるのは、運によってではいけない」by 原田

休みの日に「面白い本があるかなぁ」と思って
入った書店で出会った本です。
著者の青柳碧人さんは「むかしむかしあるところに死体がありました」
を読んで、発想が面白いと思ったので購入しました。
大好きなミステリー小説だったこともあります。

主な登場人物

原田保典…(株)SCIデュケーション 家庭教師派遣会社主任
沼尻室長…原田の上司
清遠初美…原田の後輩、新人職員
リサ…女子高生、原田の部屋に入り浸っている

気になる家庭を訪れる原田

原田は家庭教師派遣会社の主任。
家庭教師の大学生の面談を行い、気になる家庭を訪問。
虐待の可能性がないか調査する。

以前に虐待の現場を発見し通報した社員の働きをきっかけに
児童相談所から協力を要請される。
会社の上層部は会社のイメージアップもあり
協力を惜しまず、各教室に「訪問担当」を設置する。
原田もその一人。

現場の多くの職員は、この決定に否定的。
原田の上司、沼尻もその一人。
「子どもの勉強以外のプライベートに立ち入られて
嬉しい保護者なんていない。顧客を失う」が自論。

高校生リサの存在

原田の家に入り浸っているリサ。
リサが酔っ払いに絡まれている所を原田に助けられる。
それ以来、原田の家に入り食事を作っている。
原田は家庭訪問先の話をなんとなくリサにし、
リサの何気ない一言でその家の闇に気付くのだった。

原田のトラウマ

大学4回生で卒論を自宅で書いていた時の事。
マンションの2階に原田の部屋から、向かいの家が見える。
昼の3時頃になると男性の怒号が聞こえてくるのだ。

ある日いつもより大きな声が向かいの家から聞こえてくるので
窓を開けると、向かいの家も窓が開いていた。
あざだらけの女の子と目が合う原田。
女の子は父親に引きずられて見えなくなってしまった。
その家には手作り雪だるまの人形があった。
紺色のシルクハットに黄色いマフラー
尖りすぎたニンジンの鼻に赤い二つの目。

原田は次の日から卒論を大学で書くようになった。
少女を助けられなかった負い目が
原田の心を縛り付けていた。

新人職員 清遠初美

以前原田が虐待されている子どもを保護した記事を読み
原田に憧れてSCIデュケーションに就職した初美。
原田に家庭訪問の同行を願いで、食事にも誘う。
単なる憧れだけではなく、原田に好意がある素振りを見せる。

あのぬいぐるみが…

大学生、日比野照之が原田に面談を申し込んできた。
小学年生の博を担当している。
日比野が博の家を訪ねると、女装した博が居た。
自分がトランスジェンダーであることをカミングアウトする。

勉強を見ている時に博の足首に輪をはめた様に赤くなり
所々、かさぶたになっているのに気付く。
傷の事を聞くと博は「いい子じゃなかったから…」
日比野は博が父親から虐待されているのではないかと疑い
原田に打ち明けたのだった。

原田が博の家を訪問すると父親の丈一郎が迎えた。
博の両親は離婚しており、父親との二人暮らし。
丈一郎は博の部屋に案内し、寝相が悪くてベッドから落ちるのを
防ぐために足に手錠をしていると説明される。
その後、丈一郎はスクールカウンセラーで息子の話より
自分の仕事の話を延々と続ける。

原田がふと部屋の飾り暖炉に目を向けると
そこには、あの忌まわしい雪だるまの人形があった。
何故、この家にあの人形が…。
原田の頭は混乱する。

【感想】

本のカバーに大まかなあらすじが載っています。
最後に「驚愕のラストが待ち受ける」の一文があり
どこが驚愕のラストなのか…と予想しながら読みました。

女子高生リサは予想通りでしたが、ラストは本当に
「そこか!? マジか~~~~っ」
青柳さんにやられました。
さすが早稲田大学クイズ研究会OB !!

本書は連作短編集となっています。
4つの家を訪問していくなかで
原田の抱えるトラウマ
女子高生リサとの出会い
新人職員、清遠初美との距離感
などが書かれていて長編としても楽しめます。

この本を書くにあたって、どのような取材をしたのかはわかりませんが
大人のフラストレーションのはけ口が我が子に向かう。
人に知られてはならないこと…悪い事と自覚しているので隠す。
子どもは親を庇う。

ふと思ったのですが、虐待をしている親は他人が家に入られることを
拒むのではないだろうか??
家庭教師を頼むのだろうか??
そんな素朴な疑問が湧きました。

【目次】
鳥籠のある家
逆さ面の家
祖母の多い家
蠅の飛ぶ家
雪だるまのあった家
エピローグ

284ページ
2019年3月25日第1刷発行
集英社文庫
本体価格 620円

著者 青柳碧人
1980(昭和55)年、千葉県生れ。
早稲田大学教育学部卒業。
早稲田大学クイズ研究会OB。
2009(平成21)年、「浜村渚の計算ノート」で「講談社 Birth」小説部門を受賞し、デビュー。
小説執筆だけでなく漫画原作も手がけている。

著書
「浜村渚の計算ノート」シリーズ
「ヘンたて」シリーズ
「朧月市役所妖怪課」シリーズ
「西川麻子は地理が好き。」シリーズ
「ブタカン!」シリーズ
「彩菊あやかし算法帖」シリーズ
「猫河原家の人びと」シリーズ
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』など

幸せになる百通りの方法 荻原浩

「私も寂しかったのだ。やはり」by 松本

【あらすじ】
松本は会社の転籍を断った結果、解雇となった。
家族に言い出せずに、会社に行くふりをして家を出る。
書店や公園で時間を潰す毎日。
お昼はパン。

妻に真実を言おうとするがタイミングがつかめない。
仕事を辞めて3日目。
元の会社が使うガソリンスタンドが無い、公園を見つけた。
雨をしのげるベンチもあり、おあつらえ向きの隠れ家の様だった。

ある日、コップ酒を飲みながら公園で過ごしていたら雨が降ってきた。
「雨宿り、ご一緒させてもらえませんか」
松本より一回りほど年上で、長めの銀髪を後ろに撫でつけた小柄な男だった。
男は「もしや、会社をリストラされたんじゃないですか」
男もそうだったと打ち明けた。
妻に3年間言えず、その妻も癌で亡くなったと男は告げた。

それから、男とはベンチに手紙を置いてのやりとりが始まった。
『本日は昔の会社の同期会に出席しますので、夜もぞんぶんにお使いください ベンチマン』
松本はベンチマンに必ず返事を書いた。

ベンチマンとのやり取りが続く毎日。
11月に入り風が冷たく感じるようになった。
ロータリーのバス待合用のベンチに座っていると、近くの喫煙所に息子の姿を見かけた。
松本の姿を見つけ近づいてくる息子。
息子とはもう長い間、会話をしていなかった…。
(ベンチマン)

【感想】
短編集です。
あらすじに書いた、リストラされたけど家族にそのことが言えず、毎日会社に行くふりをする松本。
役者を目指していたが劇団がつぶれ、オレオレ詐欺をしている慎之介。
戦国ゲームにハマり、その時々の主人公にハマっていく彼女を持つ敦志。

どの話も自分の周りには居ないけど、どこかには居そうな人たち。
「人って温かいな」と読んだ後に思います。

おススメ度
★★★

【目次】
原発がともす灯の下で
俺だよ、俺。
強もみんなつながっている。
出逢いのジャングル
ベンチマン
歴史がいっぱい
幸せになる百通りの方法

文春文庫
306ページ
2014年8月10日第1刷発行
本体価格 550円
電子書籍あり

著者 荻原浩
1956(昭和31)年、埼玉県生れ。
成城大学経済学部卒。
広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。
1997(平成9)年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞を、2014年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞受賞を、2016年『海の見える理髪店』で直木三十五賞を受賞。

著作
『ハードボイルド・エッグ』
『神様からひと言』
『僕たちの戦争』
『さよならバースディ』
『愛しの座敷わらし』
『ちょいな人々』など多数。

夢も見ずに眠った 絲山秋子

今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマ「新刊が出るとつい買ってしまう作家」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから

https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/09/10-1_honskeyclub_20190918.mp3


ラジオネーム 星の王子さま
「新刊が出るとつい買ってしまう作家」
絲山秋子さん

① 絲山秋子さんのおススメどころ
私と同じ群馬県高崎市在住の絲山秋子さん。
出版不況が叫ばれている今、特に純文学のジャンルは書き手も読み手も絶滅危惧種ではないかと思ってしまうぐらいですが、絲山秋さんはご自身の信念に基づいて常にぶれず、様々なテーマで純文学を追求されている作家さんです。
その文章は簡潔でありながらも淡々と書かれており、独特な世界感を作り上げています。

② おススメの作品
芥川賞受賞作の「沖で待つ」や、「袋小路の男」など代表作が多数ありますが、今一番のオススメは最新長編「夢も見ずに眠った」です。
この作品は夫を熊谷市に残し、札幌市へと単身赴任した妻のふたりが、お互い離れて暮らすうちに次第にすれ違っていきながらも新たな場所にたどり着く物語です。

③ 今、注目している作家
水墨画家であり作家の砥上裕將(とがみひろまさ)さん。水墨画をテーマにした最新刊「線は、僕を描く」は今年読んだ本の中でナンバー1です。

「夢も見ずに眠った」あらすじ

夫の高之を熊谷に残し、札幌へ単身赴任を決めた沙和子。
しかし、久々に一緒に過ごそうと落ち合った大津で、再会した夫は鬱の兆候を示していた。高之を心配し治療に専念するよう諭す沙和子だったが、別れて暮らすふたりは次第にすれ違っていき…。
ともに歩いた岡山や琵琶湖、お台場や佃島の風景と、かつて高之が訪れた行田や盛岡、遠野の肌合い。そして物語は函館、青梅、横浜、奥出雲へ―土地の「物語」に導かれたふたりの人生を描く傑作長編。

河出書房新社
304ページ
2019年1月26日第1刷発行
本体価格 1750円 
電子書籍あり


プロフィール
1966年東京都生れ。
早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。
2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞を受賞。

著書
『逃亡くそたわけ』『ばかもの』『妻の超然』『末裔』『不愉快な本の続編』『忘れられたワルツ』『離陸』など多数。

絲山賞について

絲山賞とは、一年間で絲山秋子が読んだもののなかで 一番面白かった本に差し上げている賞です。
年末にweb日記上で発表されます。(第一回のみエッセイの中で発表)
本人への連絡等はしません。 (出版社が連絡している場合は多い)

名誉、ありません。正賞、副賞、ありません。
つまるところ「我が家の十大ニュースってなんだっけ」と 年末の食卓で語られるような、そんな程度の賞です。
単行本の帯や、対談等に採用されることがありますが、 これは受賞者側の「粋な計らい」によるものです。

2018年
第15回絲山賞は、内田洋子著『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)です。
本屋大賞に、新たにノンフィクション本部門が創設され、その大賞候補に、『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』がノミネートされました。

人知れぬ山奥に、本を愛し、本を届けることに命を懸けた人たちがいた。
小さな村の本屋の足取りを追うことは、人々の好奇心の行方を見ることだった。これまで書き残されることのなかった、普通の人々の小さな歴史の積み重なりである。
わずかに生存している子孫たちを追いかけて、消えゆく話を聞き歩いた。
何かに憑つかれたように、一生懸命に書いた。

イタリアで暮らすジャーナリストである著者が、人から話を聞いてこれまで知らなかった村に出かけて行った。つまり旅の話です。本を愛する著者の視線とフットワークによって村の良さもゆかりの人々の魅力も、どんどんひらいていくように感じられます。
( 絲山秋子 オフィシャルウエブサイトより引用 )

絲山秋子 オフィシャルサイト

ショパンの心臓 青谷真未

「あの絵は、俺にとって“ショパンの心臓”なのだ」by 村山

【あらすじ】

羽山健太は大学を卒業したばかり。
在学中に就職が決まらず、母親に叱られ再び就職活動を始める。
会社面接に行った帰りにふと目に留まった木彫りの仮面。
看板には「よろず美術探偵」とある。

「何か気になるものでもあったかな?」
店主の南雲に声をかけられ、従業員も募集していると聞き
とりあえず健太はバイトとして働き始める。

健太がこれまで就職出来なかった理由の一つに
面接前に会社の概要を一切読まなかったことにもある。
文章を読むことが苦手なのだ。

「よろず美術探偵」に一人の客が来る。
美術館に勤務している立花貴和子。
用件は画家の村山光雄が生前に「ショパンの心臓」と称していた絵を探して欲しいとのことだった。
南雲はこの案件を健太に任せると公言する。

貴和子自身が集めた資料を持ち帰った健太。
しかし資料を読めず「ショパンの心臓」をネット検索するとヒットした。
ショパンはパリで亡くなったが心臓だけは遺言で故郷のポーランド、ワルシャワの教会にある。
そこから村山が言う「ショパンの心臓」はある絵の一部ではないかと仮説を立てる。

仮説は立てたもののどこから手をつけて良いかわからず健太は、とりあえず貴和子の勤める美術館に行き村山光雄の絵を見せてもらおうと思いつき美術館まで行く。
アポイントも取らずいきなり現れた健太にあきれながらも数点の絵を見ることができた。

あらためて資料を読み始めると村山の絵がデパートの美術画廊に出展することになり、そこで絵が無断で切断されてしまい、激怒した村山は以後どの画廊にも絵を貸すことはなかったという記述を見つける。

健太は藤橘屋デパートの本店が山形にあることを調べ、現地に調査に行くことを決める。
店長の南雲からも承認を得、意気揚々と山形に向かう健太。
藤橘屋デパートで画廊コーナーは無くフロアマネージャーに村山の絵の事を聞くが、今は一枚も無く、何の情報も得られなかった。

南雲からはきちんとした報告書でなければ、出張費は自費になると言われ慌てる健太。
「ショパンの心臓」の絵は見つかるのか???

【感想】
この小説では読んでいて不甲斐ない健太の成長記の様で実は、一枚の絵を通して3組の親子が描かれています。
村山光雄と父親
立花貴和子と父親
羽山健太と両親
親が子に向ける愛情が額面通りに子に受け取られることは無いことをあらためて感じさせられます。
親が子を思う気持ちがありながらも、表現方法を間違えると誤解が生じてしまいます。

もう一つのキーワードは「出自」
このことで人の一生が左右されることが語られています。

最初の書き出しと書かれているテーマとのギャップがこの作品の面白さです。

ポプラ文庫
285ページ
2019年1月4日第1刷発行
本体価格 660円
電子書籍あり

著者 青谷真未
東京都出身。
『鹿乃江さんの左手』で第二回ポプラ社小説新人賞・特別賞を受賞し、銅座区でデビュー。
『ショパンの心臓』(ポプラ社)や『君の嘘と、やさしい死神』(ポプラ文庫ピュアフル)など、ミステリから青春者まで多彩な表現力で注目を集めている。

著書
「となりのもののけさん」
「神のきまぐれ珈琲店」
「夏の桜の満開の下」など