谷中の街の洋食屋 紅らんたん 濱野京子

「富美さん、夢を失ったかもしれないでしょう」by 千佳

【あらすじ】
奈留美…紅らんたんでアルバイトをしながら就職先を探している。
千佳…紅らんたんのオーナー、コーヒー担当、74歳
真崎…紅らんたんのマスター、コーヒー以外のメニューを作る。千佳とは昔からの知り合い

ふとしたきっかけで「紅らんたん」で働くことになった奈留美。
「紅らんたん」のお客様はご近所の高齢の方がほとんど。
常連客の一人、富美さんの家に千佳と奈留美は訪問する。

富美さんはご主人に先立たれて独り暮らし。
その富美さんに再婚を考える人が現れた。
相手は観葉植物を販売する会社の社長。
亡くなったご主人は生前に「俺か死んだら再婚してもいいんだよ」
と言っていたにも関わらず、富美さんの夢枕に立つのだ。
何度も。
奈留美は寝室へ案内されると気配を感じた。

数日後、富美は相手を連れて「紅らんたん」にやってきた。
食事を終えたころ、店に富美の息子からの電話があった。
富美が先に家に戻ってしばらくしてから再度、電話がかかる。
富美の息子が話をしたいと言っているのだ。
男は二人分の食事代を払って、そのまま行方をくらました。
(三 夢枕にたつ人)

【感想】
連作短編集です。
「紅らんたん」に集まる常連客の人々が皆、個性的です。
話が進むにつれて、千佳と娘の話になります。

いくつになっても恋がしたい。
女学生の様な仲の良い二人の老女。

イケメンで周りの女性にモテモテの征一。
征一の友人でぽっこりお腹の和夫。

人が60年以上生きていると様々な事があり、
今を形成しています。
いつまでも〇〇な自分でありたい…。
そんな人たちの息遣いが聞こえてくる小説です。

自分に正直に生きること。
年齢を重ねた今だから、周りに知人がいることの大切さ。
今は地域の人たちが集う、純喫茶が少なくなっています。
「紅らんたん」の様な喫茶店がこれからは求められるのではないでしょうか。

【目次】
プロローグ
一 古い手紙
二 恋模様
三 夢枕に立つ人
四 母と娘
五 千佳さんの休日
六 怪我の功名
七 汚部屋の住人
八 ワトソンがんばる
エピローグ

ポプラ社
245ページ
2019年10月4日第1刷発行
本体価格 660円

著者 濱野京子
熊本県に生まれ、東京で育つ。
児童文学作家
『フュージョン』で第2回JBBY賞、
『トーキョー・クロスロード』で第25回坪田譲治文学賞を受賞。

著書
『その角を曲がれば』
『レッドシャイン』
『碧空の果てに』
『甘党仙人』
「レガッタ!」シリーズなどがある。

濱野京子 ツイッター

虎を追う 櫛木理宇

「この国ではつねにマジョリティがおとなしく、マイノリティの一部だけがノイジーで人目を惹きがちだ」

北蓑辺郡連続養女殺人事件の犯人、亀井戸死刑囚が獄中で病死する。
この事件は今からおよそ30年前の1987年から88年にかけて起きた事件。
小学生の幼女が誘拐され性的暴行を受けたうえに殺された。
犯人は亀井戸健と伊与淳一の二人。
伊与死刑囚は再審を要求している。

亀井戸死刑囚が亡くなった事と当時の事件の様子を伝える新聞を見ていた元刑事星野誠司は当時を思い出す。
亀井戸と伊与は当時、空巣をしていた。
亀井戸は近所でも評判が悪く、自白をしたので逮捕となった。
当時、星野は「亀井戸が計画的に幼女を誘拐し、残虐な行為をしたとは思えない。
ましてや二人一組の性的連続殺人犯も聞いたためしがない」と上司に話をするが取り合ってもらえなかった。

星野は昔馴染みの記者、小野寺と居酒屋で会いなんとかして世論を動かして伊与の再捜査になるように動くつもりであることを告げる。
小野寺は世論を動かす見込みがあるなら記事にすると星野に伝えた。

星野は自分の孫で大学生の旭に冤罪で再審要求の文章をネットで公開したいと相談する。
旭は文章より動画を勧め、幼なじみの哲に相談する。
哲は動画作成と公開にあたって、被害者遺族全員の許可を取る事を条件にした。

一方星野は伊与の弁護士、片桐と会い自分が当時の捜査員だったことや冤罪の可能性があることを伝える。
片桐はこれまでの資料を星野に快く貸し出した。

星野、旭、片桐弁護士の3人は被害者の遺族、柳瀬久美子と木野下一己と会い自分達がやろうとしている活動を説明すると、条件つきで承諾を得ることができた。
小野寺は独自ルートで栃木総合テレビの報道番組プロデューサーの福永を巻き込む。
星野、旭、哲、小野寺、福永…星野組が結成された。

ツイッターや動画は思った以上に反響があり、哲が作った動画はそのままドキュメンタリーとして地方局ではあるがテレビ放映となった。
テレビ放映後、大手新聞社に真犯人を名乗る男から小包が送られてきたことが三面の記事に掲載された。
小包には女児用のスカート、古い爪、歯のかけらが入っていた。
文書には殺された幼女がよく歌っていた歌詞が書かれていた。
スカートは木野下氏が自分が娘に買ったスカートだと証言をする。

やはり冤罪だったのか!?
真犯人が名乗り出た理由は!?

そうして、新たな女児誘拐事件が起こる…。

【感想】
元刑事星野が主人公ですが、真の主人公は旭と哲です。
大学に入学したものの、燃え尽き症候群の様になってなんとなく毎日を過ごしている旭。
人との関係が上手く築けず引きこもっている哲。
特に哲が事件を表面化させる活動の中で無気力だった日々から自分の進路を見出し、やりたいことも口にするようになる変化は、この小説の第二の物語です。

小さい頃の生い立ちがその後の人生を決めてしまう可能性が高い。
親や周りの大人達の責任は重大です。
そのことをこの小説から読み取りました。

残念なのは、誘拐した幼女と犯人との描写です。
それが一度ではなく何回もあり、子を持つ親としては嫌悪を感じました。
リアルな描写は必要ないと思います。
そしてエピローグも必要だったのでしょうか?
幼女への性的暴行や誘拐、殺害は一つの事件が解決しても終わることが無い。
あえてこのエピローグで終わることにも後味の悪さが残りました。
これがイヤミスで著者が意図してのことなら、してやられました。

おススメ度
★★★★
リアルな暴行シーン(それも幼女に)やイヤミスが苦手な方にはおススメできません。

光文社
432ページ
2019年9月17日第1刷発行
本体価格 1700円

著者 櫛木理宇
1972(昭和47)年、新潟県生れ。
2012(平成24)年『ホーンテッド・キャンパス』で日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、デビュー。
同年、『赤と白』で小説すばる新人賞を受賞。著書
『ドリームダスト・モンスターズ』シリーズ
『死刑にいたる病』
『209号室には知らない子供がいる』
『鵜頭川村事件』など著書多数。

知の越境法 「質問力」を磨く 池上彰

「前の壁を越えるのではなく、隣へ越境する」

元NHK記者でフリージャーナリストの池上彰氏の著書。
複雑なニュースを小学生にも分かるように、噛み砕く語り口で好評な池上氏のヒストリーが詰まっている1冊。

自分にとって異なる文化と接することで自分を活性化できる「越境のススメ」

こどもの視点に戻るクセをつける

相手に答えてもらいやすい質問の仕方
◆素朴な質問を恐れない
知ったかぶりをせずに、こどものように知らないことは知らないと聞く。
◆質問中にメモをみない
メモがあると、それに引きずられて、相手の言葉に素直に反応することができなくなる可能性がある
◆事前に相手に関する書籍を読んでおく
・事前に準備できることがあればしておくのが、相手への礼儀
・資料を読むことで質問の内容も変わる
◆想定外の質問をする
こどもがするような素朴な質問をすることで、思った以上の話を引き出すことができる
◆人をダシに使う
自分の意見を前面に出すと、「考えが違うから」と話が進まなかったり、質問者に同調するだけの答えになりやすい
→「これについては、こういう意見の人がいますが、どうですか?」と聞く◆「リスペクト光線」をだす
相手を高く評価している、その気持ちを目に込めて相手に接する


oldtakasuさんによる写真ACからの写真 

「すぐに役に立たない」ことは「いずれ役に立つ」

越境のメリット
◆知らないことを知る
・自分が物を知らないと思えば、人に尋ねるのも恥ずかしくなくなる
・新しい知に出会うことができる
◆知らないことを知って停滞を破る
・自分の足りないものを点検し補う
◆離れているものどうしに共通点を見出す
・置き換えの技を使う
→難しい話になるとすぐに、これを他に例えるとどうなるだろうと考えてわかりやすい表現を考える
◆知らないことを知ることで多数の視点を持つ、自分を相対化する
・多角的な視点を持つことは大事だが面倒くさい
→新聞や総合雑誌を読む
・フェイクニュースに惑わされない
現状を脱し新天地に飛び込むことで仕事の幅を広げることができ、人を自由にすることを可能にする

【感想】
多くの学びがある本でした。
所属部署が変わるたびに関連する分野を勉強する姿勢が今の池上氏を作っていると感じました。

池上氏がNHK時代に地方の社会部から警視庁捜査一課の担当になり法医学を学びます。
記者からキャスターになる事で発声を学び、「週刊こどもニュース」を担当することでニュースをわかりやすく伝える人として認識され、フリーになった時に民放から引っ張りだことなります。

元々は記者なので文章を書くのは本業、本の執筆も声がかかります。
人生の経験でムダなものはないと確信を持ちました。

「心に残ったフレーズ」
・人の話を聞くときは相手と斜め45度になるように座る
・アウトプットを意識したインプット
・アイスブレイクで事前にコミュニケーションを取る

おススメ度
★★★★★
今の自分に煮詰まっている人
何か新しいことをしようと思っている人
職場で異動が決まった人
池上彰氏に興味がある人
におススメです

【目次】
はじめに
第1章 「越境する人間」の時代
第2章 私はこうして越境してきた
第3章 リベラルアーツは越境を誘う
第4章 異境へ、未知の人へ
第5章 「越境」の醍醐味
第6章 越境のための質問力を磨く
終章   越境=左遷論
おわりに

光文社文庫
257ページ
2018年6月20日第1刷発行
本体価格 800円
電子書籍あり

著者 池上彰
1950(昭和25)年、長野県生まれ。
ジャーナリスト。
東京工業大学教授。
慶應大学経済学部卒業後、NHK入局。
報道記者や番組キャスターなどを務め、2005年に独立。
2013年、伊丹十三賞受賞。

著書
『伝える力』
『おとなの教養』
『日銀を知れば経済がわかる』ほか著作多数。

最後まで読んで頂きありがとうございます。
当ブログの記事があなたの読書のお役に立てれば幸いです。
また読みに来ていただけると嬉しいです。

読書は「アウトプット」が99% 藤井孝一

本を読むだけで終わらせるのではなく「使う」という感覚

大きな本屋に行くとビジネス書の「読書術」というコーナーがあります。
私自身「読書の家庭教師」として、読書会を開催しています。
もう一度、初心に帰って「読書」を学ぼうと書店で購入した本の一冊です。

本に付加価値をつける3つのアウトプット

① 話す
◆今日あった出来事を報告するように本の話をする
◆本の内容を思い出し、繰り返し話すことで初めて記憶になる
 ➡ 本の内容は、人に話すことで自分のものになる

② 書く
◆好きなように読書メモを書く
・その本から感じたことや学んだことを書き出していく
・本のエッセンスを感じ取るのに正解も不正解もない。
・自分の感情を基準に考える
・ポイントがどこか自分さえわかっていれば、どんな書き方をしてもよい
◆本のレビューを書く
・アマゾンのレビューを書きこむ
・自分が一読者としてどう感じたか
・「つまらない」と思ったら何がどうつまらなかったのかを書く
・文章を書く練習になる
◆書評を書くポイント
・何が書いてあったか
・そこから何を学んだか
・それをどう活かすか
➡ この3つを柱にしてまとめる

③ 行動する
◆本に書いてあることを一つでもいいので実践する
◆本に載っている「ワーク」を実践する
◆本に載っているサイトやURLにアクセスしてみる

いい本を選ぶコツ

① 目次を見る
・目次を読めば全体像がわかる
・タイトルと内容が合っているか
・章ごとにポイントが明確になっているか
・知りたい情報が書いてあるか

② 著者のプロフィールを見る
・著者の経歴を見る
・どのような成果を残しているのか
・代表作でとんな領域に詳しい人なのかを知る

③ まえがきを見る
・書き手が最も力を入れているのがまえがき
・最初の3行でピンと来るか
・読みてのことを考えて書いているか

【感想】
著者がより伝えたい所は太字で表記してあります。
各章の最後にはまとめが載っているので、この本が勧めている「必要なところを拾い読みする、斜め読み」がしやすくなっています。

書評の書き方や書評のメルマガの書き方が具体的に載っているだけではありません。
おススメの書評メルマガやサイトも載っているので、本選びにも役立つ本です。

人に話すことや文章を書くことが苦手な人は、書いてあることを実践してみる、またはワークをやってみるという所からアウトプットを始めるのもありだなと思いました。
アウトプットの方法を全てやらなやくても、まずは自分ができそうなところから始めて少しずつ広げていく…その具体的な方法が書いてあるので読みやすくわかりやすい本でした。

【こんな人におススメ】
本のアウトプットの仕方がわからない
書評を書いてみたいが書き方がわからない
効率の良い本の読み方を知りたい
本の選び方がわからない

おススメ度
★★★★★

【目次】
はじめに
1章 もっと「本の話」を誰かとしよう
2章 「速読」よりも「乱読」せよ!
3章 読書の最高の「自己投資」にする技術
4章 「お金を稼ぐ人」は、本をこう読む!
5章 私は、こんな本を読んできた

知的生きかた文庫
221ページ
2014年1月10日第1刷発行
本体価格 571円

著者 藤井孝一
1966年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。
・経営コンサルタント(中小企業診断士)
・株式会社アンテレクト取締役会長
独立・起業を目指すビジネスパーソンに対し、ノウハウ提供やアドバイスなど、実践的なサポートを行う。
特に、かつて「副業」と呼ばれていた「在職中から起業する」スタイルを「週末起業」と名付け、その普及に東奔西走する。
この活動を加速させるため、2003年に「週末起業フォーラム」を創設、1万人を超えるビジネスパーソンが学び、独立・開業を果たす。
さらに、ビジネスパーソンの自立を、教育コンテンツ、パートナーシップ、インフラの面からも支援するために、株式会社アンテレクトを創設、経営を行っている。

著書
『週末起業』
『ビジネススキル大全』
『お金を稼ぐ勉強法』など多数

藤井孝一 オフィシャルサイト

テロリストのパラソル 藤原伊織

「破壊だけを目的とする道具は弱者のためにある」by 桑野

この小説は私が大好きな作家、塩田武士・伊兼源太郎、両氏が人生が変わった小説として挙げていました。
史上初、江戸川乱歩賞と直木賞を受賞した作品です。 

おススメ度
★★★★★
ミステリーの中では、前半にばらまいた伏線を回収しきれないままに終わってしまう話があるのですが、この小説は見事です。
題名に入っているパラソルは???と思っていたら、ちゃんとありました。
ミステリー好き、ハードボイルド好きな人におススメです。

【あらすじ】
小さなバーの雇われバーテンの島村は、朝10時に目覚めると近くにある公園に行き、ウイスキーを飲むのが日課。
ある日、いつもの様に公園でウイスキーをあおっていると、小さな女の子が話しかけて来た。
将来バイオリニストになるのだと言う。
女の子が父親と去り、布教活動で話しかけてきた青年も去って、ウトウトとしかけたその時だった。
地響きが伝わってきた。
続いて悲鳴が…。
爆薬が炸裂したのだった。
周りは死者と死者の破片が散らばっている。
その中で島村は見つける、バイオリニストになりたい女の子を。
女の子の後に話しかけてきた青年に女の子を託し、その場を離れる島村。
この爆発で大学時代の友人、桑野の腕も見つかり新聞で死亡と伝えられていた。

島村は大学自体に全共闘に参加しており、桑野と共に車で爆発事故を起こしていた。
桑野が爆弾を作り、車で移動中に事故を起こして爆発したのだった。
この時から桑野と島村はテロリストとして指名手配される。
時効にはなっているが島村は警察と関わることは極力避けてきた。

島村は単独で今回の爆発を起こした張本人を突き止めようと動く。
そこにやくざの浅井、大学時代の彼女だった園堂の娘が絡んでくる。
店の周りには警察が張り込み、やくざにボコボコにされ、馴染みだった者が一人、また一人と死体で見つかる。

公園の爆発は一体なんのために?
島村は狙われたのか??

【感想】
爆弾の犯人は意外な人でした。
数々の伏線がひとつ残らず活かされています。
出てくる登場人物にもすべてに意味があり、そこがそう繋がるのか…と後半は途中で読むのを中断することに後ろ髪をひかれました。
何故、題名にパラソルなのか…。
あ、そこからなのか(ネタバレになるので書きませんが)
読んでいて、あれはどうなったんだろう?
と思っていたモヤモヤがすべて解決されます。

大学時代、多感な年ごろを全共闘で、それも安田講堂事件の真っただ中で、一つの時代を共有した人たちは、その後の人生にも少なからず影響を与えるのだろうか…。
少なくとも、島村・桑野・園堂の3人は引きずったまま、それぞれの人生を歩んでいたように感じます。

一人ひとりの人生が交錯する中で起こるすれ違い…。
ミステリーでハードボイルドなのに昭和の青春も感じさせ、ちょっとノスタルジックな小説でした。

角川文庫
374ページ
2007年5月25日第1刷発行
電子書籍あり

著者 藤原伊織
1948年大阪生まれ。
東京大学文学部フランス文学科卒業。
電通に勤務する。1977年、「踊りつかれて」で野性時代新人文学賞佳作を受賞。1985年、『ダックスフントのワープ』で第9回すばる文学賞受賞する。
その後、原稿依頼を断っているうちに注文が来なくなり、発表が途絶える。
1995年『テロリストのパラソル』を江戸川乱歩賞に応募し、受賞する。
翌年、同作で直木三十五賞も受賞した。
それまでに乱歩賞受賞作が直木賞の候補になったことや、乱歩賞受賞作家が直木賞を受賞した例はあったが、同一の作品で二賞を受賞したのは史上初であった。2002年、電通退社。

2007年5月17日、食道癌のため東京都品川区の病院で死去。
享年59歳。著書
『ひまわりの祝祭』
『雪が降る』
『てのひらの闇』など

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注文をまちがえる料理店 小国士朗

「認知症である前に、人なんだよな」

「注文をまちがえる料理店」は期間限定のお店です。
ここで注文を取り料理を運ぶのは、認知症がある方達です。
なので、注文を間違えたり忘れたり、お水を2つ持ってきたりします。
でもお客さんは誰一人怒りません。
それどころか、間違えずに持ってくると残念がったりするのです。
そんなお店ができるまで、そしてそこであった一人ひとりのものがたりが語られている1冊です。

おススメ度
★★★★★
ノンフィクションやドキュメンタリーが好きな人
モノづくりに興味がある人
高齢者の介護に興味がある人
特におススメです。

認知症になっても最期まで自分らしく生きていく姿を支える

著者の小国氏はテレビ局のディレクターです。
2012年ある認知症のグループホームを取材していました。
ここに入居している認知症の方々は、買い物から料理・掃除・洗濯も自分でできることはできる範囲でやっています。

ある日の午後、お昼ご飯の献立はハンバーグ。
でも食卓に並んでいるのはなんと餃子。
小国氏は「あれ?今日はハンバーグでしたよね?」という言葉を飲み込みました。
食べた餃子は美味しかった。
そのときに「注文をまちがえる料理店」というワードが浮かんだのです。

仲間になってもらいたい人の「三つの条件」

「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトを進めるにあたって小国氏は仲間を集めます。
認知症の方が働くレストラン。
ともすれば、認知症の人を見世物にする…そんな意見だってでてきます。

今回、小国氏は仕事ではなくてプライベートのプロジェクトとして進めていくことにしました。
仲間を集めるにあたっては三つの条件をまとめました。
① 100%おもしろがってくれる人
  「不謹慎だけど面白そう」と「ニヤリ」と笑ってくれる人
② 僕にできないことができる人
  ミッションを一人で背負わない
  自分が不得意なことを書き出していく
③ 自分の利益を捨てられる人
  「最後は目的のためにその利益を捨てられるよ、こんちきしょう」という粋な人

大事にしようと決めた「二つのルール」

メンバーが集まり、実行委員会形式で中身を具体的に考えていくことになり、ルールを決めました。
◆料理店としてクオリティにこだわる(オシャレであること、料理がおいしいこと)
 ・どうやったらみんなが「行ってみたい」と思うお店になるのか
 ・どうやったらお客様が心からワクワクできる空間を作れるのか
 ・料理の料金は均一にする
 ・お客様の期待を超える料理を提供する

◆間違えることが目的ではない。だからわざと間違えるような仕掛けはやらない
 ・お客様の中には間違えることを期待する人もいる
 ・エンターテイメントとしての料理店
 ・喧々諤々の議論をかわし「やっばり認知症の方が間違えるような設計をするのは本町転倒」と意見が一致
 ・認知症の家族の方に意見を聞く
  「間違えちゃうかもしれないけど、許してねっていうコンセプトはとてもいいと思う。でも妻にとって、間違えるということは、とてもつらいことなんですよね」
 ➡ 間違えないように最善の対応を取りながらそれでも間違えちゃったら許してね(てへぺろ)という設計にしようとメンバーで一致

間違えることを受け入れて、間違えることを一緒に楽しむ

実際に「注文をまちがえる料理店」で働いた認知症の当事者の様子から
◆元美容師のヨシ子さん
 ・接客業の経験があるので言葉遣いも丁寧でとても慣れた様子。
 ・料理を持って行くテーブルを間違えることもありました。
 ・ヨシ子さんにとって重要なのは「仕事ができる」という事実
 ・後日、ヨシ子さんはいつもは行かない近所のコンビニに行き、働いた謝礼金の封筒からお金を出してお買い物。
 → 自分で稼いだお金で、なんでも好きに買える。それができることがヨシ子さんにとって大事なことだったのではないでしょうか。
◆飲食店で働いていたテツさん
 ・オーダーを間違えないか心配している仲間に「これを渡してお客様に書いてもらおう」と素晴らしい解決策を出しました
 ・飲み物を出すタイミングをお客様の食事の様子を見ながらはかっているテツさん
 ・初日の帰りに「私一人だったら何も役に立てなかったね。仲間がいっぱいいてくれたからできたのよ」
 ・「みんながいたからがんばれた」「仲間ってほんとに大切よね」と繰り返してスタッフに話すテツさん
 → いつも明るくて、冗談もよくいうテツさんですが、深い話を聞かせてくれたてのも、教え諭すように話す様子を見たのもはじめてでした。

♥ 開店の前の朝、みんなで確認しあったこと
「働く人も、お客様も、僕たち裏方も、『やってよかったね』と笑って帰れるようなレストランにしよう」

注文をまちがえる料理店 公式ホームページ

【感想】
読んでいて「こんなレストランいいな」から「こんな地域がいいな」「こんな日本がいいな」と思いました。
「間違えること」が✖(ペケ)の風潮が強い日本。
レストランで注文と違うものが出てきたらクレームものですよね。
でもここは違う。
「間違っても大丈夫な空気がありました」…当日のアンケートの言葉です。
誰だって間違えたくて間違う訳じゃない。
心のゆとりが必要です。

これまで「認知症」というと「ご飯を食べたことを忘れる」など大変だなぁというイメージでした。
この本を読んで周りの支えがあれば認知症でも普通の暮らしができる。
そして「人の役に立っている(=仕事がある)」ことが生きていく上でどれだけ重要なことなのかを、あらためて感じました。
それは認知症の方だけでなく、全ての人にとってです。

【目次】
Prologue 「注文をまちがえる料理店」ができるまで
第Ⅰ部  「注文をまちがえる料理店」で本当にあったものがたり
第Ⅱ部  「注文をまちがえる料理店」のつくりかた
Epilogue 「注文をまちがえる料理店」のこれから

あさ出版
239ページ
2017年11月9日第1刷発行
本体価格 1400円
電子書籍あり著者 小国士朗
2003年テレビ局入局。
情報系のドキュメンタリー番組を中心に制作。2013年に9か月間、社外研修制度を利用し大手広告代理店で勤務。
その後、番組のプロモーションやブランディング、デジタル施策を企画立案する部署で、ディレクターなのに番組を作らない“一人広告代理店”的な働き方を始める。
スマホアプリやSNS向けのサービスの企画開発の他、個人的プロジェクトとして、認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」などをてがける。

最後まで読んで頂きありがとうございます。
当ブログの記事があなたの読書のお役に立てれば幸いです。
また読みに来ていただけると嬉しいです。