ちゃんちゃら 朝井まかて

「人に手を出したのは久しぶりだ」

【主な登場人物】

ちゃら…植木職人、植辰で剪定の修行中
辰蔵… 植辰の親方
お百合…辰蔵の娘
福助… 備前の武家の出の庭師、辰蔵と修行仲間
玄林… 石組に優れる石垣師、穴太衆の末裔
白楊… 嵯峨流正法家元、辰蔵を目の敵にする

【あらすじ】

ちゃらは天涯孤独の身
幼少の頃に養家を転々としていたが、辰蔵と出会い剪定を習う中で「庭つくり」の魅力を知り修行中。
植辰の仕事も安定し毎晩、福助や玄林達との夕飯時が楽しいひと時。
ところが京から嵯峨流を名乗る白楊がやってきて、辰蔵の贔屓客を次々と門下にしていく。
植辰の庭は枯れていくと風評も流れ、辰蔵は追い込まれる。
白楊はちゃらの選定の腕を見込み嵯峨流に来れば名を馳せることができると執拗に誘うが、一蹴するちゃら。
「ならば、そなたは大事な物を失うことになろうの」
不吉な言葉を残して去る白楊。
次々と植辰に災いがふりかかるのを見て自分のせいだと思い込むちゃら。
ちゃらはある決断をする。

【感想】


序盤から中盤にかけて人物関係やちゃらの成長を丁寧に書いていたのに対し、後半があっけなく感じてしまいました。
玄林の行動もいつの間に??って感じだったので、ちょっと消化不良でした。

講談社文庫
本文 371頁
解説 小梛治宣(おなぎはるのぶ)

【こんな人におススメ】

時代小説が好き
青春物が好き

虎の尾 渋谷署強行犯係 今野敏

「自分が捕まる前に、やることがあると考えてるはずさ」

【主な登場人物】

竜門光一…整体師、空手家
辰巳吾郎…渋谷署強行犯の刑事
葦沢真理…竜門の整体院のアシスタント
大城盛達…空手家、竜門の師匠

【あらすじ】


宮下公園で半グレの若者達が何者かに襲われる。
一瞬にして手首や肩関節を外され動けなくなったというのだ。
辰巳は竜門の整体を受けながら、犯人像を竜門に問う。
この一件をニュースで知った大城が沖縄から竜門を訪ねてやってくる。
「強い人の話を聞くと、ワクワクする…」
大城は道場を持たず、試合以外の実践で腕と技を磨いてきた達人である。
竜門と大城は夜の宮下公園に様子を見に出かける。


実はこの一件は単なる半グレの若者を痛めつける暴力事件ではなかった。
宮下公園を住処とするホームレスのテントが燃え動けないホームレスが焼死したのだ。
半グレの若者たちが面白がってやったことなのだが、警察は火の不始末として片づけた。
事の真相を知っている誰かが、報復のために放火した若者を探しているのだ。
やられる半グレ達が増えていくなか、上の組織も黙ってはいられない状況になり、警察も動き出した。
それでも宮下公園への散歩を止めない竜門と大城。
事態はどう動くのか…。

【感想】


武術にも長けている今野さんならではの、空手や柔道に関する知識や歴史もさらりと紹介されています。
その手の著書は避けてきたのですが(笑)
好きな警察小説で合体させられると読まざるを得ません。
いやいや、正確に言うと刑事は出てきますが、私の中ではこの話は警察小説には当てはまりません。
主役で活躍するの竜門は刑事ではなく整体師だからです。
作中で大城というオジーが出てきます。
このオジーがいい味を出していて最後はオチの様になっているのが良かったかな。

【こんな人におススメ】

ミステリー好き
格闘技好き

徳間書店
346頁
単行本

{スタンダップダブル 甲子園ステージ 」小路幸也

北北海道予選を勝ち抜いた

神別高校がいよいよ甲子園に!!

 

抜群のコントロールを持つピッチャーのコーイチ
センターのコーイチと双子のケンイチは
コーイチのモーションで打球がどこに飛ぶか
わかってしまう。

バッターにどう攻めるか考えてミットを構える
キャッチャーのシンジ

 

この3人を中心にチームのメンバーは

養護施設で元プロ野球選手の理事長から
楽しく野球を教えてもらっていた。
ある事件で養護施設は閉鎖になり
子ども達はバラバラに…。
なんとしても甲子園で優勝して
マウンドで施設の旗をなびかせて

バラバラになった仲間に見てほしい。
その一心でグラウンドで守り攻める球児たち。


その神別高校を執拗に調べる元球児のフリージャーナリスト塩崎
神別高校が勝ち進む事が金にからむと情報をつかむ
中学からずっと新聞記者として取材をしながら
見舞ってきた絵里は塩崎のたくらみを阻止しようと
奔走する。

果たして甲子園の戦いは?
塩崎の陰謀は阻止できるのか?

私感

前作に比べて試合の様子より
塩崎の陰謀をどう阻止するかにウエイトが
あったように感じました。

 

野球を愛する人は根っからの悪人じゃない
人の描き方は小路さんならではでしょうか。
裏表紙をめくったところに描かれている
塩崎らしい人物。
ここに愛を感じちゃいました(*^^*)

スタンダップダブル!  小路幸也

とある新聞社の北海道支局に転勤になった記者の前橋絵里。
絵里はスポーツ担当でとりわけ高校野球に力を入れている。
北海道に来て気になる高校を見つけた。

神別高校。
部員10名ながら、ピッチャーのコントロールは抜群。
ピッチャーは1年のコーイチ。
センターはコーイチと双子のケンイチ。
キャッチャーはシンジ。
この3人がチームの要。

他行の細かいデータを取って分析するのがマネージャーのめぐみ。
選手はめぐみのデータを頭に叩き込んで試合に挑む。
そしてなにより守備が抜群にうまい。
普通なら外野へのヒット性のあたりが、アウトになってしまう。
そこには双子ならではの秘密があるのだが…。

絵里は夏の大会が始まる前から神別高校に絞って取材を行う。
一方、神別高校野球部では新しい監督タムリンが就任する。
タムリンは甲子園にも出場した選手で社会人野球を辞めて神別高校の監督に就任した。
選手の特徴やチームカラーを尊重しながら的確なアドバイスをする。

神別高校の野球部はもともと、ある養護施設「そよ風学園」に居た子ども達が
集まってきたチーム。
「そよ風学園」は元プロ野球選手だった「ハジメ先生」が理事長。
子ども達と毎日野球をしていたが、ある事件があり「そよ風学園」は解体してしまう。
子ども達はそれぞれ引き取られ、野球を続けていた。

夏の甲子園を目指して1回戦が始まる。

私感

小路さんならではのアットホームな青春小説です。
ありえない設定もあるけれど、
大人は子どもの自主性を尊重するからこそ信頼関係も生まれるんだ
と感じました。

目的があるからチームも一致団結する。
今年の夏の甲子園も楽しみです。

天上の葦 太田愛

10月10日土曜日の正午
渋谷のスクランブル交差点で老人が
何もない空を指して絶命する。
鑓水の探偵事務所に
「老人が指していたものは何か?」
との依頼が服部を通じて磯部から舞い込む。
謝礼は1000万円
因縁のある磯部からの依頼とあり修司は断るように勧めるが
鑓水は依頼を受けなければならない事情があった。

一方、刑事の相馬は停職中。
そんな相馬の元に警視庁公安部課長代理の前島から
同じ公安部の刑事で失踪した山並を見つけるようにと
極秘の任務を受ける。

全く関係のない2つの出来事が繋がっていたと知り
鑓水、修司、相馬の3人は瀬戸内海にある曳舟島に向かう。
そこで得た真実は、遠く70年以上前に起きた太平洋戦争にまで
遡るのだった。

 

毎回、太田さんの小説には社会問題が提起されている。
今回は「報道の自由はあるのか?」
シリーズ前作の「犯罪者」「幻夏」とも事件の解決に欠かせない
ツールとして「メディア」が登場していた。
今回はその「メディア」そのものが事件のカギとなる。

太平洋戦争時では報道がコントロールされた。
戦況を正しく伝えず、人々は逃げることは許されず
焼夷弾が落ちても消火活動をすることを求められた。
そのために各都市での大空襲では多くの命が奪われる。
疎開さえしていれば多くの特に子ども達の命を奪われずに済んだ。
当時の大本営報道に携わった老人は言う。
「火は小さいうちに消さなければ」

今回この小説を読んで2つの事を思った。

1つは、何故この題材なのか。
今、まさに「小さい火」なのだという
著者のメッセージなのではないかと受け取った。
新聞やテレビが報じる内容は本当に真実なのか?
東日本大震災時における原発事故や
沖縄で起こっているオスプレイの事故など
本当に真実が全て報道されているのだろうか?
メディアコントロールの恐ろしさを知ったうえで
真実を見極める目が今、求められているのだと感じた。

もう一つは、戦時中の私の祖母の行動。
当時は隣組でお互いを監視するような状態だった。
祖母は当時神戸で暮らしていて回覧板には
「爆撃があっても家を守り逃げません」という署名が
回ってきて署名したらしい。
神戸も空襲にあい「このままだと死んでしまう」と
思った祖母は幼い母の手を引いて逃げたそうだ。
もちろん家は丸焼け、そのまま残っていたら死んでいたと。
祖母が母と逃げてくれたおかげで今の私が存在する。

次の作品が楽しみだ




 

 

「幻夏」 太田愛

 

 

ある夏休みの午後
相馬亮介はお昼ごはんのお弁当を買いに行き
同年代の兄弟、尚と拓に出会う

3人は意気投合し兄弟の秘密基地で
夏休みを過ごす
同い年の尚は亮介に
「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」と打ち明ける。
それでも2人の関係は変わらなかった。

2学期が始まる始業式の日
3人は一緒に学校に向かうが
尚が「忘れ物取ってくる」と家に引き返したまま
行方不明となった。
傍にはランドセルと不思議な印が残されていた。

相馬は刑事になり管轄内で少女の誘拐事件が起きる
現場には相馬が小学生の頃に起きた
行方不明事件と同じ印が残されていた。

捜査には担当課ではないものの気になり
元上司に様子を聞き、科警研の倉吉望を紹介される。

一方、鑓水は私立探偵となり必要となれば
修司をアルバイトで雇っていた。
そんな鑓水のところに一人の女性が訪ねる。
「23年前に行方不明になった息子を探してほしい」
と依頼し女性は姿を消す。

23年前の行方不明の男は相馬の友人尚だった。
果たして尚は見つかるのか?
誘拐事件は解決するのか?
相馬・鑓水・修司の独自の捜査が始まる。

 

 

前作「犯罪者」同様、あれこれ自分なりに推理をしながら
読んでいたが、やっぱり今回も良い意味で裏切られた。
そして何気に修司と亜連は上手くいき
しれっと相馬と碧子も恋人同士になってる!?
鑓水は生活ランクがかなり下がった感があるし…。

犯罪被害者は全ての生活が変わってしまい
無垢な子ども達まで巻き込んでしまう。
尚と拓の親子と理沙の親子の違いで親子の絆を深めるには
相手を思いやる愛情が不可欠だと感じた。