コールセンターガール 増田一志

「矢吹はもはや一種の兵器です。人間関係破壊兵器」by 黒木

【あらすじ】

横浜アイウェアお客様ご相談窓口の坂本春代は毎朝9時7分過ぎにかかる電話に出る。
相手は矢吹徹。
カルティエ(矢吹はカルチエと言う)の眼鏡を店員が素手で触ったとのクレームなのだ。

矢吹は「春代ちゃん」と呼び自分のことを「徹さん」と呼ばせる。
そしていつも言うのだ。
「で、それでどういう誠意をお前さんたちは見せてくれるんだ」
具体的には言わない。
金品を要求すると暴対法の対象として処理できる。
矢吹も心得ているので、決して具体的には自分から言わない。
春代も決して具体的に誠意の内容を言わない。
矢吹は毎朝、電話してくるのだ。
一定のやり取りが済むと矢吹は昼前まで世間話を始める。

その日もいつもの様に矢吹から電話がかかってきた。
矢吹は春代の卒業した大学名や子どもが居ること、シングルであることを話し出す。
春代は「誰が自分の情報を漏らしたのか…」
そのことが気になり矢吹との会話に集中できなくなる。

春代は高校生の同級生の真藤が社長になったのを新聞で知る。
久しぶりに真藤と食事をすることになった春代は飲みすぎてホテルで介抱されている時に暴漢が入ってきて真藤は殴られる。
真藤の会社の弁護士が春代のところへやってきた。
先日のホテルでの一件が写真に撮られていたのだ。
弁護士は春代と暴漢がぐるだと疑ってかかった物言いだった。

矢吹からの電話でつい真藤とのこと、弁護士が来たことを話してしまう。
暴漢は矢吹がらみではなかったが、話の中で春代はつい「ちょっと迫られもしました」と言ったのを録音していた。
これをネタにゆすることができる。
春代は矢吹に止める様に懇願する。
すると矢吹は「俺のいう事をなんでも聞くか?」と交換条件を出してきた。
「出来るだけ努力する」と答える春代。
一体春代は矢吹からどんな難問を突きつけられるのか…。

【感想】
この小説は1話、2話、3話と続きます。
1話での春代のコールセンターガールとしての受け答えが完璧で引き込まれました。
やくざだと思っていた矢吹の正体が1話で明かされます。
思わず「おぉ~っ」と唸ってしまいました。
ここで終われば短編ですが、秀逸な小説でした。

2話、3話と進むにつれて、矢吹が暴走します。
風呂敷を広げ過ぎたのではないか??
と思う展開になりました。

とはいえ、矢吹の存在は実際にあるだろうし、
ひょっとするとどこかで現実に起こっているかも知れない。
と思わせる(1話に限りですが)話でした。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、
気になる方はぜひ読んでみてください。

おススメ度
★★★
(1話だけなら★★★★)

スタイルノート
416ページ
2019年8月30日第1刷発行
本体価格 1800円

著者 増田一志
1959年生。
1983年東京大学文学部イタリア文学科卒。
2014年小学館「ゴルゴ13脚本大賞」佳作受賞

最後まで読んで頂きありがとうございます。
当ブログの記事があなたの読書のお役に立てれば幸いです。
また読みに来ていただけると嬉しいです。

夢も見ずに眠った 絲山秋子

今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマ「新刊が出るとつい買ってしまう作家」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから

https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/09/10-1_honskeyclub_20190918.mp3


ラジオネーム 星の王子さま
「新刊が出るとつい買ってしまう作家」
絲山秋子さん

① 絲山秋子さんのおススメどころ
私と同じ群馬県高崎市在住の絲山秋子さん。
出版不況が叫ばれている今、特に純文学のジャンルは書き手も読み手も絶滅危惧種ではないかと思ってしまうぐらいですが、絲山秋さんはご自身の信念に基づいて常にぶれず、様々なテーマで純文学を追求されている作家さんです。
その文章は簡潔でありながらも淡々と書かれており、独特な世界感を作り上げています。

② おススメの作品
芥川賞受賞作の「沖で待つ」や、「袋小路の男」など代表作が多数ありますが、今一番のオススメは最新長編「夢も見ずに眠った」です。
この作品は夫を熊谷市に残し、札幌市へと単身赴任した妻のふたりが、お互い離れて暮らすうちに次第にすれ違っていきながらも新たな場所にたどり着く物語です。

③ 今、注目している作家
水墨画家であり作家の砥上裕將(とがみひろまさ)さん。水墨画をテーマにした最新刊「線は、僕を描く」は今年読んだ本の中でナンバー1です。

「夢も見ずに眠った」あらすじ

夫の高之を熊谷に残し、札幌へ単身赴任を決めた沙和子。
しかし、久々に一緒に過ごそうと落ち合った大津で、再会した夫は鬱の兆候を示していた。高之を心配し治療に専念するよう諭す沙和子だったが、別れて暮らすふたりは次第にすれ違っていき…。
ともに歩いた岡山や琵琶湖、お台場や佃島の風景と、かつて高之が訪れた行田や盛岡、遠野の肌合い。そして物語は函館、青梅、横浜、奥出雲へ―土地の「物語」に導かれたふたりの人生を描く傑作長編。

河出書房新社
304ページ
2019年1月26日第1刷発行
本体価格 1750円 
電子書籍あり


プロフィール
1966年東京都生れ。
早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。
2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞を受賞。

著書
『逃亡くそたわけ』『ばかもの』『妻の超然』『末裔』『不愉快な本の続編』『忘れられたワルツ』『離陸』など多数。

絲山賞について

絲山賞とは、一年間で絲山秋子が読んだもののなかで 一番面白かった本に差し上げている賞です。
年末にweb日記上で発表されます。(第一回のみエッセイの中で発表)
本人への連絡等はしません。 (出版社が連絡している場合は多い)

名誉、ありません。正賞、副賞、ありません。
つまるところ「我が家の十大ニュースってなんだっけ」と 年末の食卓で語られるような、そんな程度の賞です。
単行本の帯や、対談等に採用されることがありますが、 これは受賞者側の「粋な計らい」によるものです。

2018年
第15回絲山賞は、内田洋子著『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)です。
本屋大賞に、新たにノンフィクション本部門が創設され、その大賞候補に、『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』がノミネートされました。

人知れぬ山奥に、本を愛し、本を届けることに命を懸けた人たちがいた。
小さな村の本屋の足取りを追うことは、人々の好奇心の行方を見ることだった。これまで書き残されることのなかった、普通の人々の小さな歴史の積み重なりである。
わずかに生存している子孫たちを追いかけて、消えゆく話を聞き歩いた。
何かに憑つかれたように、一生懸命に書いた。

イタリアで暮らすジャーナリストである著者が、人から話を聞いてこれまで知らなかった村に出かけて行った。つまり旅の話です。本を愛する著者の視線とフットワークによって村の良さもゆかりの人々の魅力も、どんどんひらいていくように感じられます。
( 絲山秋子 オフィシャルウエブサイトより引用 )

絲山秋子 オフィシャルサイト

色彩 阿佐元明

「仕事が片付いたら、俺の家へ夕飯を食べに来ないか」by 千秋

第35回太宰治賞 受賞作の小説です。

「太宰治賞」
三鷹市と筑摩書房が共同で主催する公募新人文学賞である。
第1回から第14回までは筑摩書房のみで行っていたが業績悪化に伴い休止、太宰治没50年の1999年より現在の形となり、年1回発表されている。
受賞は選考委員の合議によって決定され、受賞者には正賞として記念品、副賞として100万円(2008年実績)が授与される。
選考委員は加藤典洋・荒川洋治・奥泉光・中島京子の4名。
締め切りは12月10日。

Wikipediaより引用

【あらすじ】
千秋は元ボクサー。
目を悪くしてボクシングは辞めて幼なじみの高俊に誘われ、塗装業の親方の元、三人で現場を回っていた。

隣町にあった同業者が廃業し、仕事が忙しくなったためもう一人雇うことになった。
求人を出してしばらくして、細くて頭の形になでつけた短髪の豆電球の様な青年。
名は加賀。
加賀は芸術の専門学校で油絵を専攻していたが、就職はしていなかった。

長く三人だったので、新しく加賀が入るために車を掃除し机を配置して迎えた。
加賀は塗装のスジがよく、塗りむらがない。
丁寧な仕事ぶりに三人とも加賀の動きに見入っていた。
歓迎会をすると、加賀はジョッキに入った酒を飲んではトイレで吐くのを繰り返した。

千秋は結婚していてもうすぐ父親になる。
千秋の妻、亜佐美は千秋が話す加賀の様子に興味を持ったようだ。
「家に呼んで夕飯をご馳走しよう」という亜佐美に千秋はすんなり同意しなかった。
親方や高俊も加賀には好意的だ。
なんとなく千秋は面白くなかった。
つい、加賀に強くあたってしまう千秋。

千秋、高俊、加賀の三人で、注文を受けた仕事を丁寧に仕上げていく。
ある会社の社長から「倉庫の壁に空の絵を描いてくれ」という仕事が入った。
加賀は壁を眺めて微動だにしない。
この仕事は加賀が中心に始まった…。

【感想】
静かな作品です。
加賀が仕事を通じて成長していく姿が淡々と描かれています。
そんな加賀を見ながら、焦りを感じる千秋。
千秋の心の葛藤も丁寧に描かれています。

半径4kmほどの中で起こる、親子の関係や夫婦の関係、同僚の関係。
焦り、戸惑い、同情など人が生きていると感じる負の感情を
「ああ、そういう気持ちわかる」と読んでいて感じました。

おススメ度
★★★★

筑摩書房
221ページ
2019年9月18日第1刷発行
本体価格 1500円

著者 阿佐元明
東京都出身、在住。
1974年生まれ、44歳、男性。

キネマの神様 原田マハ

今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマは「私の号泣本」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから


https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/08/9-4_honsuki-club_20190817.mp3

ラジオネーム しまりす

原田マハ キネマの神様 文春文庫


①この本のおすすめどころ
ズバリ、親子愛。
映画の話ももちろん映画好きとしては非常に嬉しかったですが、
号泣するほど感動したのは、深い親子愛でした。

読み終わったとき、「この本に出会えたことが幸運だった」「日本語が読めて良かった」と思ったものです。
そして、ひとつだけ、しかもこの本の中で最も重要な作品として出てきた映画を私は見逃していたので、急いでDVDを借りて観ました。
本来は、映画館で観るべきだとは思いつつ、もうかなり前の映画なのでそれも叶わず、キネマの神様にお許しを乞うた次第です。
映画のタイトルは『ニューシネマパラダイス』。これにも、あったかい涙が流れました。こうして、『キネマの神様』とこの名画が私のなかでゴタマゼになって、なんだかとっても心地いい記憶となっているのです。

② この本との出会い
テレビで男性のタレントさん(お笑い系、名前はど忘れ、顔は覚えているのですが……)が「号泣した!」と言っていて、どんな本かなと興味をもったのがキッカケでした。
原田マハさんの本としては、『カフーを待ちわびて』の次に読んだのがこの本だったと思います。
もう何年も前のことですが、どうしても「号泣した本」となると、この『キネマの神様』が一番に思い浮かびます。

③ 直近の号泣した出来事
最近は号泣した記憶がないのが正直なところ。
なんだか、寂しい話です。
私は生きているのか!?と自分に問いかけてしまいそうになります。
というわけで、直近でも5年以上前のことですが、初めて自力で一冊(1年かけて)本を翻訳して、最後の一文を書き終えたとき。
朝方5時くらいでしたが、ひとり泣きに泣きました。
いや、本当に若かったです。

【あらすじ】
無職の娘とダメな父。ふたりに奇跡が舞い降りた!
39歳独身の歩は突然会社を辞めるが、折しも趣味は映画とギャンブルという父が倒れ、しかも多額の借金が発覚した。
ある日、父が雑誌「映友」に歩の文章を投稿したのをきっかけに歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログをスタートさせることになった。
〈ゴウ〉のハンドルネームで父が書くコラムは思いがけず好評を博し、借金とギャンブル依存から抜け出せそうになるが、ある時〈ローズ・バッド〉を名乗る覗の人物に反論されて……。
〝映画の神様〟が壊れかけた家族を救う、奇跡の物語。


著者 原田マハ
1962(昭和37)年、東京都小平市生まれ。
関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。
馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。
その後2005(平成17)年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。
2012年に発表したアートミステリ『楽園のカンヴァス』は山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードなどを受賞、ベストセラーに。
2016年『暗幕のゲルニカ』がR-40本屋さん大賞、2017年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。

著書
『本日は、お日柄もよく』
『ジヴェルニーの食卓』
『デトロイト美術館の奇跡』
『太陽の棘』など多数

シークレットペイン 夜去医療刑務所・南病舎 前川ほまれ

「今日は失格でも、明日合格ならいいじゃないですか」by 愛内

【あらすじ】
精神科医の工藤は週に二日、夜去医療刑務所に勤務することになった。
初日から同じ精神科医の神崎に連れられて、観察室から回ることになった。
観察室は一般質とは違う特別な造りになっている。

工藤は受刑者を番号で呼び、自分の名を名乗らず診察をする。
一方神崎は受刑者の名前を呼び、冗談を交えながら診察をしていく。
観察室には工藤の幼なじみの滝沢が居た。
滝沢は殺人を犯して服役中で自殺企図があるため夜去に送られてきた。

あくまでも決められた期間内に淡々と仕事をこなす工藤。
北病舎には内科医の愛内が居て工藤を献香式…亡くなった受刑者を弔う式に誘う。
仕方なく参加する工藤。
愛内は緩和ケアもしているが工藤には受刑者に緩和ケアは必要ないと言い切る。

そんな工藤だが日が経つうちに滝沢との小学生時代の思い出がよみがえり少しずつ会話をするようになる。
ある日、神崎から作業療法を見に行くように言われる。
作業療法にはダウン症や自閉症スペクトラムや高齢者の受刑者4名が作業をしていた。
工藤はそのうちの一人と深海魚について話をするが、ダウン症の二人が喧嘩を始めたのをきっかけにパニックになってしまう。
このことをきっかけに刑務官の西川と話をするようになる。

診察をするうちに滝沢が癌に罹っていることがわかる。
心が揺れる工藤。
滝沢は工藤に「泉屋のいなり寿司が食いてぇ」とつぶやく。
工藤は滝沢の代わりに松島にある泉屋へ向かう…。

【感想】
率直な感想として軽いあまり真面目ではない感じで書かれている神崎が実は患者に寄り添った医療を展開したり、主人公の工藤が名を名乗らず受刑者を番号で呼び、冷徹な情に溺れない設定なのに、急に人間味溢れる医者に変わった感が否めないのが残念。
工藤の変化はもう少し丁寧に描いても良かったのではないだろうか?

とはいえ前半には医療刑務所の実態が所長の相沢によって語られる。
一人あたりかかる経費は400万円。
それが全て税金で賄われている。
矯正医療に関する否定的なコラムの話も出てくるが、そもそも何故否定的になるのか。
それは今、国民が医者にかかると3割を負担しなければならない。
自分達は有料なのに罪を犯した受刑者には無料で提供されることへの反発なのではないだろうか。

以前はサラリーマンなら初診時に800円払えば後は無料。
高齢者も老人医療証があれば無料だった。
それが今は個人の負担額がどんどん増えているために受刑者が無料であることに反対する人がいる。

物語の中盤には刑務所には高齢者や知的障がい者が増えていることが書かれている。
そ故か?
一般社会では就職もできず住むところも無く、出所時に渡されたお金もすぐに無くなるため、窃盗で捕まり刑務所に戻ってくるのだ。
工藤を通して今の刑務所の実情や医療刑務所の実態が描かれ骨太な内容にもなっている。

おススメ度
★★★

ポプラ社
381ページ
2019年9月19日第1刷発行
本体価格 1700円
電子書籍あり

著者 前川ほまれ
1986年生まれ。宮城県出身。
看護師として働くかたわら、小説を書き始める。
2017年、「跡を消す」で、第7回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。

前川ほまれ ツイッター

ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~ 十三湊



今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマは「おススメの美味しい本」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらからできます。

https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/07/8-2_honsuki-club_20190711.mp3

かおる文庫のおすすめブックコーナー

北海道在住のブックコーディネーター 
かーるさんが本を紹介するコーナーです。
今回は「おススメの美味しい本」

以前ご紹介したことがあるのですが、大好きな本なので紹介内容を追記しました。

ちどり亭にようこそ
~京都の小さなお弁当屋さん~
著者:十三湊 とさ みなと
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス

◎あらすじ
京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」。
美人店主花柚(はなゆ)の作るお弁当を食べるとどんな人も笑顔がこぼれます。
花柚と彼女を囲む人々の美味しくて心温まる人間ドラマ。

◎みどころ
京都の四季を背景に、料理を愛する人々の日常とちょっとした事件がほのぼのと描かれます。

主人公の彗太(けいた)はアルバイトの大学生。
飲み会のあとに行き倒れ、花柚に拾われたのが出会いです。
二日酔いで弱った体に、花柚の料理はじわーっと染み渡り、それがきっかけで自炊を始めてついには店で働くことになります。

店主の花柚は24歳。
毎週見合いするのが趣味の旧家のお嬢様。
将来の旦那様のため磨いた料理の腕は、
今のところお弁当屋さんでいかされています。

このお話の序盤にでてくるお弁当の説明はとても素敵です。
数のそろった日本のお弁当は、世界でも特殊なコンパクトなのに完結している食事だそうです。
花柚の料理の先生曰く、お弁当は家族が遠く離れたところで食べることを考えて作られた「持ち運べる家庭」なのです。

届けたい誰かのために作るものは、それだけで価値がありますね。
何があってもゆるがないような、軸があるものをやってみたいと料理を仕事に選んだ花柚。
季節にあわせた丁寧な料理は、日々の営みに忘れそうになる食事への感謝を思い出させてくれます。

たとえ人生を大きく変えられなくても、
そこに込められた想いは人を動かす原動力になるのです。
四季折々の日本の美しさ、料理の素晴らしさを生き生きと伝えてくれる本です。

気に入ったら続編もあります。よりお楽しみいただけますよ。

著者 十三湊
『C.S.T.情報通信保安庁警備部』で第20回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”を受賞して作家デビュー。
『ちどり亭にようこそ』が第10回エキナカ書店大賞を受賞し、人気を博す

著書
「夏のおわりのおくりもの」
「今朝もどこかでサンドイッチを」
「彗星の夜と幸福な日」ついに、はなゆさん結婚