人生は並盛で 小野寺史宜

「とりあえず牛丼でも食うか」by 竹志

たまに行く田村書店には古書コーナーがあります。
行くと必ず立ち寄り心惹かれる本は無いかと探すのです。
この本は題名の「人生は並盛で」と帯に書いてあった
「幸せのどんぶり一丁」に惹かれて購入しました。

太った女子大生日和VS若作りで男好きの恵

恵は4歳になる息子を姑に預けて牛丼屋でパートをしている。
仕事は基本手抜き。
面倒な仕事は理系の女子大学生で太っちょの日和に押し付け
店長が居る時や気に入った若い男性とペアだと、嫌なトイレ掃除も進んでやっちゃう。

恵はバイトの数馬と不倫をしている。
数馬がバイトを辞めることを聞いて、次は周吾かなと次のターゲットを決める恵。

ミスが多い準一が、テキパキと仕事をこなす日和に告白するが断られる。
そのことが面白くない恵は日和に準一から言い寄られるている様なことを話す。
もちろん嘘。
日和も嘘だとわかっているが、自分勝手で仕事も手抜きな恵が許せず
ある計画を実行する。

5年後の約束

竹志はレストランで突然、恋人のすみれに別れ話を切り出す。
突然の別れ話に怒ったすみれは竹志にカクテルをかけて店から出る。

竹志には5年前に別れた「夏」が居た。
お互いに忙しくて、段々会えなくなり別れた。
その時に5年後の23時55分に駅前で会おうと約束して…。
すみれに別れ話を切り出したのはちょうど5年目の約束の日だったのだ。

同じレストランのボーイ京平はワインをお客さんの服にこぼし
皿をよく割る。
そのうえワインをこぼした年上の女性と不倫中。
勤務態度を店長に注意され「皿は割れるものだ」と反論する京平。
態度をあらためない京平に店長はクビを言い渡す。
捨て台詞を吐いて店を出た京平は「モデルガンで店長をいつか撃ってやる」
と心に決める。

竹志が約束の場所に行くが、そこに夏が現れることはなかった。

ひき逃げ事件

夏は誘われて周吾と観覧車に乗っていた。
周吾にしつこく誘われるが夏は断った。
この日、夏は仕事を休んでバイクを走らせ考え事をしていた。
周吾と別れた後、バイクにまたがりまた走り出す。
5年前の約束を思い出しながら…。

同じ日、役所に勤める美哉は大学時代の友人
山野井と須賀と三人でバーで飲んでいた。
当時、美哉は山野井と須賀とも時期は違うがつき合っていた。
今は違う男性と結婚し、こうしてたまに三人で会って飲んでいる。

帰り道、須賀は山野井の車に乗り込み一緒に帰る。
須賀は山野井に200万円の借金を申し込むが断られる。
山野井はアクセルを踏み込みスピードを上げ
あやうく自転車を引きそうになる。
間一髪で自転車が止まったが、次の角でバイクをひいてしまう。
ブレーキをかけなかったのでそのまま逃げる山野井。
須賀は山野井から200万円を借りることができた。

牛丼屋に強盗現る

5年前の約束から1年、竹志はまた約束の時間に駅前にやってきた。
もちろん夏は現れない。
終電を乗り過ごし、行きつけの牛丼屋に入る。
日和と準一がシフトに入っていた。
竹志は日和の働きぶりに好感を持っていた。
節度のある接客と綺麗な盛り方。
そんなことを思っていると、ふらりと入ってきた男がレジカウンターに向かう。

男はナイフを取り出し日和に向かってボソボソと何か言っている。
「あの、これでどうにか…」
「いや何ていうかほら。そのほんとに悪いんだけど」
従業員のバックスペースに通じるドアから京平が銃を手にして出てきた。

【感想】

3つの短編小説です。
全く別の次元で起こっている事が、全てどこかで繋がっている構成に驚きました。

最初の恵の話は年のサバは読むし、若い男に媚びを売るし
仕事はしないのに人の悪口だけは散々言うキャラです。
そのうえ子どもへの愛情は感じられず
「私の人生、こんなんじゃなかった」感満載です。
この小説のどこが幸せのどんぶり一丁なんだろう???
と、途中で読むのを止めようかなと思ったほどです。

2つめの話は、ちょっとした所でこの人とこの人とが繋がってる !?
とそのまま最後まで一気読み。

記憶力がいまひとつの人は登場人物をメモるか、もしくはフセンを貼るのをおススメします。
各小説を飛び越えて人間関係が繋がりますよ。
ひょっとしてこの人は…あの時に出ていたあの人???

日和が恵に対してとった行動は?
ひき逃げ事件や強盗の結末は?
きになった方はぜひ読んでみてください。
最後はちょっとホッコリしました。

【目次】

肉蠅え
そんな一つの環
弱盗


327ページ
実業之日本社文庫
2019年2月15日第1刷発行
本体価格 667円
電子書籍あり


著者 小野寺史宜
1968(昭和43)年、千葉県生れ。
2006 (平成18)年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞。
2008年、『ROCKER』でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。

著書
『みつばの郵便屋さん』シリーズ、
『片見里、二代目坊主と草食男子の不器用リベンジ』
『ホケツ!』
『その愛の程度』
『本日も教官なり』
『ひと』などがある。

「家庭教師は知っている」 青柳碧人

「子どもが守られるのは、運によってではいけない」by 原田

休みの日に「面白い本があるかなぁ」と思って
入った書店で出会った本です。
著者の青柳碧人さんは「むかしむかしあるところに死体がありました」
を読んで、発想が面白いと思ったので購入しました。
大好きなミステリー小説だったこともあります。

主な登場人物

原田保典…(株)SCIデュケーション 家庭教師派遣会社主任
沼尻室長…原田の上司
清遠初美…原田の後輩、新人職員
リサ…女子高生、原田の部屋に入り浸っている

気になる家庭を訪れる原田

原田は家庭教師派遣会社の主任。
家庭教師の大学生の面談を行い、気になる家庭を訪問。
虐待の可能性がないか調査する。

以前に虐待の現場を発見し通報した社員の働きをきっかけに
児童相談所から協力を要請される。
会社の上層部は会社のイメージアップもあり
協力を惜しまず、各教室に「訪問担当」を設置する。
原田もその一人。

現場の多くの職員は、この決定に否定的。
原田の上司、沼尻もその一人。
「子どもの勉強以外のプライベートに立ち入られて
嬉しい保護者なんていない。顧客を失う」が自論。

高校生リサの存在

原田の家に入り浸っているリサ。
リサが酔っ払いに絡まれている所を原田に助けられる。
それ以来、原田の家に入り食事を作っている。
原田は家庭訪問先の話をなんとなくリサにし、
リサの何気ない一言でその家の闇に気付くのだった。

原田のトラウマ

大学4回生で卒論を自宅で書いていた時の事。
マンションの2階に原田の部屋から、向かいの家が見える。
昼の3時頃になると男性の怒号が聞こえてくるのだ。

ある日いつもより大きな声が向かいの家から聞こえてくるので
窓を開けると、向かいの家も窓が開いていた。
あざだらけの女の子と目が合う原田。
女の子は父親に引きずられて見えなくなってしまった。
その家には手作り雪だるまの人形があった。
紺色のシルクハットに黄色いマフラー
尖りすぎたニンジンの鼻に赤い二つの目。

原田は次の日から卒論を大学で書くようになった。
少女を助けられなかった負い目が
原田の心を縛り付けていた。

新人職員 清遠初美

以前原田が虐待されている子どもを保護した記事を読み
原田に憧れてSCIデュケーションに就職した初美。
原田に家庭訪問の同行を願いで、食事にも誘う。
単なる憧れだけではなく、原田に好意がある素振りを見せる。

あのぬいぐるみが…

大学生、日比野照之が原田に面談を申し込んできた。
小学年生の博を担当している。
日比野が博の家を訪ねると、女装した博が居た。
自分がトランスジェンダーであることをカミングアウトする。

勉強を見ている時に博の足首に輪をはめた様に赤くなり
所々、かさぶたになっているのに気付く。
傷の事を聞くと博は「いい子じゃなかったから…」
日比野は博が父親から虐待されているのではないかと疑い
原田に打ち明けたのだった。

原田が博の家を訪問すると父親の丈一郎が迎えた。
博の両親は離婚しており、父親との二人暮らし。
丈一郎は博の部屋に案内し、寝相が悪くてベッドから落ちるのを
防ぐために足に手錠をしていると説明される。
その後、丈一郎はスクールカウンセラーで息子の話より
自分の仕事の話を延々と続ける。

原田がふと部屋の飾り暖炉に目を向けると
そこには、あの忌まわしい雪だるまの人形があった。
何故、この家にあの人形が…。
原田の頭は混乱する。

【感想】

本のカバーに大まかなあらすじが載っています。
最後に「驚愕のラストが待ち受ける」の一文があり
どこが驚愕のラストなのか…と予想しながら読みました。

女子高生リサは予想通りでしたが、ラストは本当に
「そこか!? マジか~~~~っ」
青柳さんにやられました。
さすが早稲田大学クイズ研究会OB !!

本書は連作短編集となっています。
4つの家を訪問していくなかで
原田の抱えるトラウマ
女子高生リサとの出会い
新人職員、清遠初美との距離感
などが書かれていて長編としても楽しめます。

この本を書くにあたって、どのような取材をしたのかはわかりませんが
大人のフラストレーションのはけ口が我が子に向かう。
人に知られてはならないこと…悪い事と自覚しているので隠す。
子どもは親を庇う。

ふと思ったのですが、虐待をしている親は他人が家に入られることを
拒むのではないだろうか??
家庭教師を頼むのだろうか??
そんな素朴な疑問が湧きました。

【目次】
鳥籠のある家
逆さ面の家
祖母の多い家
蠅の飛ぶ家
雪だるまのあった家
エピローグ

284ページ
2019年3月25日第1刷発行
集英社文庫
本体価格 620円

著者 青柳碧人
1980(昭和55)年、千葉県生れ。
早稲田大学教育学部卒業。
早稲田大学クイズ研究会OB。
2009(平成21)年、「浜村渚の計算ノート」で「講談社 Birth」小説部門を受賞し、デビュー。
小説執筆だけでなく漫画原作も手がけている。

著書
「浜村渚の計算ノート」シリーズ
「ヘンたて」シリーズ
「朧月市役所妖怪課」シリーズ
「西川麻子は地理が好き。」シリーズ
「ブタカン!」シリーズ
「彩菊あやかし算法帖」シリーズ
「猫河原家の人びと」シリーズ
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』など

桜ほうさら 宮部みゆき

「人には大きな口を叩かず、一途に生きる道がある」by 坂崎

【あらすじ】
江戸深川の富勘長屋に住む古橋笙之介は上総国搗根藩から父の汚名を晴らすためにやってきた。
笙之介の父は全く身に覚えのない賄賂を受け取った罪を着せられたのだ。
証拠は父、宋左右衛門からの賄賂の受け渡しや額が書いてある文書だった。
宋左右衛門は身に覚えがないが、その文書の字は自分の手跡なのである。
何者かにはめられた宋左右衛門は切腹し、介錯は兄の勝之助だった。
お家は取り潰しとなり、母と兄は母の実家に身を寄せていた。

笙之介は留守位役の坂崎を訪ね富勘長屋に住み、貸本屋の治兵衛からの写本の仕事を生業としている。
長屋からは一本の桜の木が見える。
まだ桜に花が咲き始めた頃に笙之介は桜の木を眺めるおかっぱ頭の少女を見かける。
桜の精のようだ…笙之介と和歌とが出会った瞬間だった。

江戸でただ住んでいるだけでは何も手がかりが掴めない笙之介は治兵衛に他人の文字をそっくりそのまま書ける人に心当たりはないか知人に聞いて欲しいと頼む。
笙之介自身も代書屋を巡り、同じ様に聞いてまわっていた。
そんな笙之介の長屋にある日、酒臭い男が訪れる。
自身を押込御免郎と名乗るその酔っ払いは自分が探している代書屋だと言うのだ。
怪しむ笙之介。
本当にこの男が探している男なのか?
押込は字を書き始めた…。

PHP研究所より引用

【感想】
文庫本で上下巻になる大作です。
父親の仇の話だけではありません。
同姓同名「古橋笙之介」を訪ねてくる奥州の武士の話。
貸本屋の治兵衛が懇意にしている貸席屋の娘が誘拐された話。
などが途中で入っています。

それぞれの話から笙之介と和歌の距離が少しずつ縮まってきます。
全体を通して書かれているのは、親と子、夫婦の在り方です。
宋左右衛門と笙之介、宋左右衛門と勝之助、笙之介と里江
和歌と母、お吉と母、治兵衛と亡き妻
親子だからこそ思ったことを相手に伝えることの大切さが第三章の拐かし(かどわかし)を読んで思います。

宮部さんは悪党にもそうならざるをえない状況を匂わせる文章を書くのが上手い小説家です。
それはきっと宮部さん自身が人を信じることができる人なのではないか…。
そんなことを思いました。
ラスト近くでは涙ぐんでしまいました。

表紙や挿画の三木謙次さんの絵が可愛くて、お話を引き立てています。

おススメ度
★★★★

時代小説やミステリー好きな人におススメです。
人情噺でもあります。

【目次】
第一章 富勘長屋
第二章 三八野愛郷録
第三章 拐かし
第四章 桜ほうさら

PHP文芸文庫
412ページ(上巻)
428ページ(下巻)
2016年1月5日第1刷発行
本体価格 上下巻共740円

著書 宮部みゆき
1960年(昭和35年)、東京生まれ。

87年、「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。

92年、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、93年、『火車』で山本周五郎賞、97年、『蒲生邸事件』で日本SF大賞、99年、『理由』で直木賞、2007年、『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。 

著書時
『<完本>初ものがたり』
『あかんべえ』
『孤宿の人』
『荒神』
「ぼんくら」
「三島屋変調百物語」
『模倣犯』
『小暮写眞館』
『ソロモンの偽証』など多数

PHP文庫 「桜ほうさら」ページ

上記サイトに入ると、人物相関図や宮部みゆきさんのインタビュー記事も読めますよ。

すみれ屋敷の罪人 降田天



今回は私のラジオ番組「ホンスキー倶楽部」で紹介した本です。
テーマ「新刊が出るとつい買ってしまう作家」

インターネットラジオゆめのたね放送局
関西チャンネル
毎週日曜午前11時~11時

試聴はこちらから

https://yumepod4.xsrv.jp/wp-content/uploads/2019/09/10-2_honskeyclub_20190918.mp3

テーマ「新刊が出るとつい買ってしまう作家」

ラジオネーム ぶるぼん

新刊が出るとつい買ってしまう作家…降田天(ふるたてん)
① 降田天のオススメどころ
必ず騙されるところです。
そしてその騙され方が「やられたー!」とか「そうきたかー!」と思っちゃうんですよね~。

降田天さんを最初に読んだのは2作目の「匿名交叉」(文庫では「彼女はもどらない」に改題)。
この物語はイヤミスなのですが、してやられた感が半端なかったのです。
展開もうまく、文章も引き込まれていき一気読み。

最新作の「偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理」では、帯に「あなたは5回必ず騙される」と書いてあったので、「騙されないぞ」と気合を入れて読んだのにきっちり5回騙されてしまいました。
なんといえばいいのかしら・・・。
騙されてるのに気持ちいいというか。

普段ミステリーをさほど読まない私ですが、降田さんの作品はしっかり買い続けて読んでます。

② イチ押しの作品
3作目の「すみれ屋敷の罪人」です。
1,2作目はイヤミスだったのですが、3作目は美しくも悲しい物語。それまでの降田天さんのイメージが覆りました。表紙の絵がとても美しい点もオススメです。

③ 今、気になっている作家さんが居れば教えてください。
小林由香さんです。
デビュー作の「ジャッジメント」が衝撃的でした。
小林さんの本はとても重いテーマですが、心に突き刺さります。

降田天 プロフィール
降田 天(ふるた てん)は、日本の小説家・推理作家。
萩野 瑛(はぎの えい)と鮎川 颯(あゆかわ そう)が小説を書くために用いている筆名の1つ。
他に鮎川 はぎの(あゆかわ はぎの)、高瀬 ゆのか(たかせ ゆのか)の名義がある。
「女王はかえらない」で第13回このミステリーがすごい! 大賞を受賞

萩野 瑛
1981年9月生まれ。茨城県常陸大宮市出身。女性。
早稲田大学第一文学部総合人文学科卒業。
辞書の編集プロダクション勤務を経て、小説家に転身。
プロット(ストーリーの要約)を担当している

鮎川 颯
1982年3月生まれ。
香川県三豊市三野町出身。女性。
早稲田大学第一文学部総合人文学科卒業。
法律事務所勤務を経て、小説家に転身。
執筆を担当している。
子どもの頃から本を読んだり文章を書いたりするのが好きだった。
大学時代に自分1人で小説を書いていて、小説の執筆の他にやりたいことはない、と思う一方で、自分で書いた作品が面白いとは感じなかった。
そんな中で、書いた小説を萩野に読んでもらうと、彼女から的確なアドバイスを受け、このことが、一緒に活動しようと思うきっかけとなった

「すみれ屋敷の罪人」

戦前の名家・旧紫峰邸の敷地内から発見された白骨死体。
かつての女中や使用人たちが語る、屋敷の主人と三姉妹たちの華やかな生活と、忍び寄る軍靴の響き、突然起きた不穏な事件。
二転三転する証言と嘘、やがて戦時下に埋もれた真実が明らかになっていく。


小林由香
長野県生まれ。
2006年、「全速力おやじ」で第6回伊参(いさま)スタジオ映画祭シナリオ大賞の審査員奨励賞、スタッフ賞を受賞する。
2008年、第1回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールで審査委員長賞を受賞する。
2011年、「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞する。
2016年、「サイレン」が第69回日本推理作家協会賞の短編部門の候補作に選ばれる。

デビュー作 「ジャッジメント」
大切な人を殺された者は言う。
「犯罪者に復讐してやりたい」と。
凶悪な事件が起きると人々は言う。
「被害者と同じ目に遭わせてやりたい」と。
20××年、凶悪な犯罪が増加する一方の日本で、新しい法律が生まれた。それが「復讐法」だ。
目には目を歯には歯を。この法律は果たして被害者たちを救えるのだろうか?

ショパンの心臓 青谷真未

「あの絵は、俺にとって“ショパンの心臓”なのだ」by 村山

【あらすじ】

羽山健太は大学を卒業したばかり。
在学中に就職が決まらず、母親に叱られ再び就職活動を始める。
会社面接に行った帰りにふと目に留まった木彫りの仮面。
看板には「よろず美術探偵」とある。

「何か気になるものでもあったかな?」
店主の南雲に声をかけられ、従業員も募集していると聞き
とりあえず健太はバイトとして働き始める。

健太がこれまで就職出来なかった理由の一つに
面接前に会社の概要を一切読まなかったことにもある。
文章を読むことが苦手なのだ。

「よろず美術探偵」に一人の客が来る。
美術館に勤務している立花貴和子。
用件は画家の村山光雄が生前に「ショパンの心臓」と称していた絵を探して欲しいとのことだった。
南雲はこの案件を健太に任せると公言する。

貴和子自身が集めた資料を持ち帰った健太。
しかし資料を読めず「ショパンの心臓」をネット検索するとヒットした。
ショパンはパリで亡くなったが心臓だけは遺言で故郷のポーランド、ワルシャワの教会にある。
そこから村山が言う「ショパンの心臓」はある絵の一部ではないかと仮説を立てる。

仮説は立てたもののどこから手をつけて良いかわからず健太は、とりあえず貴和子の勤める美術館に行き村山光雄の絵を見せてもらおうと思いつき美術館まで行く。
アポイントも取らずいきなり現れた健太にあきれながらも数点の絵を見ることができた。

あらためて資料を読み始めると村山の絵がデパートの美術画廊に出展することになり、そこで絵が無断で切断されてしまい、激怒した村山は以後どの画廊にも絵を貸すことはなかったという記述を見つける。

健太は藤橘屋デパートの本店が山形にあることを調べ、現地に調査に行くことを決める。
店長の南雲からも承認を得、意気揚々と山形に向かう健太。
藤橘屋デパートで画廊コーナーは無くフロアマネージャーに村山の絵の事を聞くが、今は一枚も無く、何の情報も得られなかった。

南雲からはきちんとした報告書でなければ、出張費は自費になると言われ慌てる健太。
「ショパンの心臓」の絵は見つかるのか???

【感想】
この小説では読んでいて不甲斐ない健太の成長記の様で実は、一枚の絵を通して3組の親子が描かれています。
村山光雄と父親
立花貴和子と父親
羽山健太と両親
親が子に向ける愛情が額面通りに子に受け取られることは無いことをあらためて感じさせられます。
親が子を思う気持ちがありながらも、表現方法を間違えると誤解が生じてしまいます。

もう一つのキーワードは「出自」
このことで人の一生が左右されることが語られています。

最初の書き出しと書かれているテーマとのギャップがこの作品の面白さです。

ポプラ文庫
285ページ
2019年1月4日第1刷発行
本体価格 660円
電子書籍あり

著者 青谷真未
東京都出身。
『鹿乃江さんの左手』で第二回ポプラ社小説新人賞・特別賞を受賞し、銅座区でデビュー。
『ショパンの心臓』(ポプラ社)や『君の嘘と、やさしい死神』(ポプラ文庫ピュアフル)など、ミステリから青春者まで多彩な表現力で注目を集めている。

著書
「となりのもののけさん」
「神のきまぐれ珈琲店」
「夏の桜の満開の下」など

虎を追う 櫛木理宇

「この国ではつねにマジョリティがおとなしく、マイノリティの一部だけがノイジーで人目を惹きがちだ」

北蓑辺郡連続養女殺人事件の犯人、亀井戸死刑囚が獄中で病死する。
この事件は今からおよそ30年前の1987年から88年にかけて起きた事件。
小学生の幼女が誘拐され性的暴行を受けたうえに殺された。
犯人は亀井戸健と伊与淳一の二人。
伊与死刑囚は再審を要求している。

亀井戸死刑囚が亡くなった事と当時の事件の様子を伝える新聞を見ていた元刑事星野誠司は当時を思い出す。
亀井戸と伊与は当時、空巣をしていた。
亀井戸は近所でも評判が悪く、自白をしたので逮捕となった。
当時、星野は「亀井戸が計画的に幼女を誘拐し、残虐な行為をしたとは思えない。
ましてや二人一組の性的連続殺人犯も聞いたためしがない」と上司に話をするが取り合ってもらえなかった。

星野は昔馴染みの記者、小野寺と居酒屋で会いなんとかして世論を動かして伊与の再捜査になるように動くつもりであることを告げる。
小野寺は世論を動かす見込みがあるなら記事にすると星野に伝えた。

星野は自分の孫で大学生の旭に冤罪で再審要求の文章をネットで公開したいと相談する。
旭は文章より動画を勧め、幼なじみの哲に相談する。
哲は動画作成と公開にあたって、被害者遺族全員の許可を取る事を条件にした。

一方星野は伊与の弁護士、片桐と会い自分が当時の捜査員だったことや冤罪の可能性があることを伝える。
片桐はこれまでの資料を星野に快く貸し出した。

星野、旭、片桐弁護士の3人は被害者の遺族、柳瀬久美子と木野下一己と会い自分達がやろうとしている活動を説明すると、条件つきで承諾を得ることができた。
小野寺は独自ルートで栃木総合テレビの報道番組プロデューサーの福永を巻き込む。
星野、旭、哲、小野寺、福永…星野組が結成された。

ツイッターや動画は思った以上に反響があり、哲が作った動画はそのままドキュメンタリーとして地方局ではあるがテレビ放映となった。
テレビ放映後、大手新聞社に真犯人を名乗る男から小包が送られてきたことが三面の記事に掲載された。
小包には女児用のスカート、古い爪、歯のかけらが入っていた。
文書には殺された幼女がよく歌っていた歌詞が書かれていた。
スカートは木野下氏が自分が娘に買ったスカートだと証言をする。

やはり冤罪だったのか!?
真犯人が名乗り出た理由は!?

そうして、新たな女児誘拐事件が起こる…。

【感想】
元刑事星野が主人公ですが、真の主人公は旭と哲です。
大学に入学したものの、燃え尽き症候群の様になってなんとなく毎日を過ごしている旭。
人との関係が上手く築けず引きこもっている哲。
特に哲が事件を表面化させる活動の中で無気力だった日々から自分の進路を見出し、やりたいことも口にするようになる変化は、この小説の第二の物語です。

小さい頃の生い立ちがその後の人生を決めてしまう可能性が高い。
親や周りの大人達の責任は重大です。
そのことをこの小説から読み取りました。

残念なのは、誘拐した幼女と犯人との描写です。
それが一度ではなく何回もあり、子を持つ親としては嫌悪を感じました。
リアルな描写は必要ないと思います。
そしてエピローグも必要だったのでしょうか?
幼女への性的暴行や誘拐、殺害は一つの事件が解決しても終わることが無い。
あえてこのエピローグで終わることにも後味の悪さが残りました。
これがイヤミスで著者が意図してのことなら、してやられました。

おススメ度
★★★★
リアルな暴行シーン(それも幼女に)やイヤミスが苦手な方にはおススメできません。

光文社
432ページ
2019年9月17日第1刷発行
本体価格 1700円

著者 櫛木理宇
1972(昭和47)年、新潟県生れ。
2012(平成24)年『ホーンテッド・キャンパス』で日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、デビュー。
同年、『赤と白』で小説すばる新人賞を受賞。著書
『ドリームダスト・モンスターズ』シリーズ
『死刑にいたる病』
『209号室には知らない子供がいる』
『鵜頭川村事件』など著書多数。