伴走者 浅生鴨

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「走っている間だけ、俺は自由になれるような気がするんだ」by内田

【あらすじ】
内田健二は元サッカー選手。
20代半ばでヨーロッパに突如として現れ、大手のクラブチームと契約。
スター選手として頂点に駆け上がりつつあった頃にバイク事故いあう。

一命を取り留め、賢明にリハビリをし身体は回復したが、
二度手術を行ったが視力は戻らず失明したままだった。
人生に失望し、周りにあたりちらし自殺を何度か考えたが死ねなかった。
内田はそこでマラソンと出会う。

視力障がい者がマラソンをするには「伴走者」が必要だ。
伴走者は選手が安心して全力を出せるように、
選手の目の代わりとなって周囲の状況や方向を伝えたり
ペース配分やタイム管理をする。

内田は伴走者に淡島を指名した。
淡島はかつては実業団でマラソンを走っていた。
今は実業団は辞めて仕事をしながらもマラソンは続けている。
淡島の走りは試合で勝つことよりも狙い通りの結果を出すことにこだわっていた。
機械の様に心拍数も含めて自分の身体を完全にコントロールし狙ったタイムを出す。
ただし、それは同じレベルの選手を潰すことにはなるが
レベルが上の選手を抜きにかかることはしない。
その機械的でかつ冷静な走りが内田がメダルを取るには伴走者として最適なのだ。

伴走者はただ走るだけではない。
コースの道路の状況やどちらに曲がるのか、段差は上りか下りか。
見えない相手に事細かに言葉で説明するのだ。
そのため通常、伴走者は最低でも2人で交代して走る。
内田の伴走者は淡島と大学生の松浦の2人だ。

金メダル獲得を目指して南国の小さな島で
初めて行われるマラソン大会に出場することになった。
ここでメダルを取れば確実にマラソンランナーとして
次のパラリンピックの切符を手にすることができる。

ところが前日に松浦が腸炎にかかった。
どうしてもがまんできなくて、カップラーメンを食べたのが原因だった。
やむなく伴走者は淡島一人で行うことになった。

レースが始まる。
内田・淡島コンビはメダルを手にすることができるのか???

【感想】
この本には今、紹介した夏のマラソン編と冬のアルペンスキー編があります。
冬のアルペンスキー編の主人公は「晴」という盲学校に通う高校生。
彼女は先天性の全盲です。
ハルの伴走者はスキー部がある会社の営業部員立川。

2つの話の設定は2020年のパラリンピック以降となっています。
どちらも予想外の展開になっていて、引き込まれて一気に読み切りました。

マラソンの選手と伴走者は輪になっているわずか50cmほどのロープで繋がっています。
走る時は歩幅も合わせてランナーと伴走者が「一心同体」となる…。
この本を読んで、伴走者の役割りを知ることができました。

サッカーをやっていた時のようにパラリンピックでメダルを取って表舞台にもう一度立ちたい内田。
自分で管理した通りに走ることで記録を作りたい淡島。
話はメダルを狙った試合の進行と共に過去に遡り、内田と淡島の出会いから現在に至るまでを交互にしながら進んでいきます。

内田がマラソンを走る理由にメダルを取りたいのもありますが、
こんなセリフがあります。
「一人で杖をついて歩くのは今でも怖い。
でも長距離を走っていると、恐怖かふっと消える瞬間があるんだよ」

この小説は2020年3月15日の夜7時から、
BS-TBSでドラマで放送されました。
内田役を市原隼人さん、淡島役を吉沢悠(ひさし)さんのダブル主演です。
このドラマに原作者の浅生鴨さんがコメントを寄せています。
(BS-TBSのサイトから引用)

一本のロープで繋がれるのは、一筋縄ではいかない二人の男たち。
それぞれ複雑で面倒くさい性格を持つこの二人。
淡島の抱える内面の葛藤を吉沢さんはどう見せるのか、
目の演技が使えない内田を市原さんはどう演じるのか。
ドラママニアとしては、そんなところも気になります。


余談ですがアルペンスキーの伴走者は先に滑りスピーカーで雪の状態やコースを説明します。
なので競技者は見えないままスキーを滑ることになるのです。
マラソンもですが、伴走者との信頼関係が無いと一緒に滑ることができません。
冬・スキー編で印象に残ったのは、霧の中で前が見えない中、ハルが立川の伴走者として一緒に滑るシーンです。

ここで立川は「選手に安心感を与えるのが伴走者の役割りだ」と実感します。
ハルの言葉「弱さのない人は強くなれないんですよ」が心にしみます。

この本を読むと、マラソンとアルペンスキーだけですが
障害者スポーツのそれも選手と伴走者の関係性や役割りがよくわかります。
東京パラリンピックを期にぜひ読んでみてください。

文庫版表紙

329ページ
2018年03月01日第1刷発行
講談社
本体価格 1400円
文庫、電子書籍あり


著者 浅生鴨
1971(昭和46)年、兵庫県生れ。
作家、広告プランナー。
NHK職員時代の2009(平成21)年に開設した広報局Twitter「@NHK_PR」が、公式アカウントらしからぬ「ユルい」ツイートで人気を呼び、中の人1号として大きな話題になる。2014年にNHKを退職し、2019年11月現在は執筆活動を中心に広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手がけている。

著書
『中の人などいない』『アグニオン』『猫たちの色メガネ』『伴走者』などがある。

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