楽隊のうさぎ 中沢けい

「既に身体は音楽の中に吸い取られていた。大きなものに包まれる感覚だった」

【あらすじ】

主人公の奥田克久は小学生の時に同級生の相田守からいじめられていた。
克久は心を閉じ学校に居る時間をできるだけ短くして自己防衛していた。

晴れて中学生になった克久は吹奏楽部に入る。
花の木中学の吹奏楽部は全国大会まで出るほどの実力がある。
朝練は当たり前、夕方も毎日遅くまで練習。
学校に居る時間をできるだけ短くする予定だったのに…。

パーカッション担当になった克久は毎日メトロノームに合わせてスティックで机を叩く毎日。
同じ1年生の祥子と並んで。
リズムを刻むのは克久の性に合った。
先輩や友人に囲まれ克久の1日は吹奏楽一色になる。
吹奏楽部は県大会を勝ち進み関東大会は銀賞だった。
3年生が引退し次に向かう吹奏楽部。

克久は顧問のベンちゃんに呼び出される。
「ティンパニーをやらないか?」
祥子がティンパニーをやりだかっていたのを知っている克久は悩む。
返事を伸ばしているとチューバ担当の町屋に呼び止められ
「ここはひとつ、きっぱり、決めなはれ」と言われた。

ある日、克久は下足室で靴を履き替えようとしている時にふいに相田から「調子乗んなよ」と言われる。
たったそれだけのことなのに、克久のダメージは大きかった。
また、心を灰色に塗る左官屋がでてきそうになる。

克久はまた心を閉ざしてしまうのか?

【感想】
とても丁寧に一人ひとりの描写がされています。
あらすじでは割愛しましたが、途中で吹奏楽部を辞めてしまう田中。
親に辞めるように言われますが本当は続けたい…でもまだ中学生。
自分の我を通し切れないもどかしさが伝わりました。

克久をいたぶる相田を通して、なぜ人はいじめる標的を探してしまうのか。
その状態がさりげなく書かれています。

中学生って子どもだけど大人への入口にたたずみ、自分でもどうしていいかわからない時期。
一人だと自分の心を閉ざしてしまいがちだけど、部活の人間関係を通して得られるものも多いんですよね。
クラスと家とは違う異年齢が集まる部活動。
思春期の子ども達にとってのサードプレイスの場ではないでしょうか。

時間を忘れて一つの事に集中できる楽しさ。
一人で積み重ねて来たものを合わせ、音を作っていく過程が克久を通して描かれています。
コンクールで演奏する曲があり、YouTubeで検索して聞きながら読むのもいいですよ。

自分の中学時代の部活を思い出しました。
ソフトボールをやってたんです。
大人になってからも縁があってソフトボールチームに加入し
つい4年ほど前まで続けることができたのも部活でやっていたからこそ。
スポーツをするのも観戦するのも好きなのは、自分がソフトをしていたからです。

中学や高校での部活って大人になってもなにがしか影響しますよね。
そんな懐かしいあの頃を思い出させてくれた小説でした。

おススメ度
★★★★
映画化にもなっています。
克久の心の中に居る「うさぎ」が上手く表現されています。


映画 楽隊のうさぎ 予告編

【目次】

第一章 草の中の瞳
第二章 ベンちゃん登場
第三章 ミネルヴァのリズム
第四章 ブラス! ブラス!! ブラス!!!
第五章 丸い大きな月
第六章 マレットはうたう
第七章 うさぎの裃
第八章 シバの女王

新潮文庫
332ページ
2003年1月1日第1刷発行
本体価格 600円
電子書籍あり

著者 中沢けい
1959(昭和34)年生れ。
千葉県館山市に育ち、18歳の高校在学中に書いた「海を感じる時」で群像新人文学賞を受賞、単行本がベストセラーになる。
1985年、『水平線上にて』で野間文芸新人賞を受賞。

著書
『野ぶどうを摘む』
『女ともだち』
『豆畑の昼』
『さくらささくれ』
『うさぎとトランペット』など。