シークレットペイン 夜去医療刑務所・南病舎 前川ほまれ

「今日は失格でも、明日合格ならいいじゃないですか」by 愛内

【あらすじ】
精神科医の工藤は週に二日、夜去医療刑務所に勤務することになった。
初日から同じ精神科医の神崎に連れられて、観察室から回ることになった。
観察室は一般質とは違う特別な造りになっている。

工藤は受刑者を番号で呼び、自分の名を名乗らず診察をする。
一方神崎は受刑者の名前を呼び、冗談を交えながら診察をしていく。
観察室には工藤の幼なじみの滝沢が居た。
滝沢は殺人を犯して服役中で自殺企図があるため夜去に送られてきた。

あくまでも決められた期間内に淡々と仕事をこなす工藤。
北病舎には内科医の愛内が居て工藤を献香式…亡くなった受刑者を弔う式に誘う。
仕方なく参加する工藤。
愛内は緩和ケアもしているが工藤には受刑者に緩和ケアは必要ないと言い切る。

そんな工藤だが日が経つうちに滝沢との小学生時代の思い出がよみがえり少しずつ会話をするようになる。
ある日、神崎から作業療法を見に行くように言われる。
作業療法にはダウン症や自閉症スペクトラムや高齢者の受刑者4名が作業をしていた。
工藤はそのうちの一人と深海魚について話をするが、ダウン症の二人が喧嘩を始めたのをきっかけにパニックになってしまう。
このことをきっかけに刑務官の西川と話をするようになる。

診察をするうちに滝沢が癌に罹っていることがわかる。
心が揺れる工藤。
滝沢は工藤に「泉屋のいなり寿司が食いてぇ」とつぶやく。
工藤は滝沢の代わりに松島にある泉屋へ向かう…。

【感想】
率直な感想として軽いあまり真面目ではない感じで書かれている神崎が実は患者に寄り添った医療を展開したり、主人公の工藤が名を名乗らず受刑者を番号で呼び、冷徹な情に溺れない設定なのに、急に人間味溢れる医者に変わった感が否めないのが残念。
工藤の変化はもう少し丁寧に描いても良かったのではないだろうか?

とはいえ前半には医療刑務所の実態が所長の相沢によって語られる。
一人あたりかかる経費は400万円。
それが全て税金で賄われている。
矯正医療に関する否定的なコラムの話も出てくるが、そもそも何故否定的になるのか。
それは今、国民が医者にかかると3割を負担しなければならない。
自分達は有料なのに罪を犯した受刑者には無料で提供されることへの反発なのではないだろうか。

以前はサラリーマンなら初診時に800円払えば後は無料。
高齢者も老人医療証があれば無料だった。
それが今は個人の負担額がどんどん増えているために受刑者が無料であることに反対する人がいる。

物語の中盤には刑務所には高齢者や知的障がい者が増えていることが書かれている。
そ故か?
一般社会では就職もできず住むところも無く、出所時に渡されたお金もすぐに無くなるため、窃盗で捕まり刑務所に戻ってくるのだ。
工藤を通して今の刑務所の実情や医療刑務所の実態が描かれ骨太な内容にもなっている。

おススメ度
★★★

ポプラ社
381ページ
2019年9月19日第1刷発行
本体価格 1700円
電子書籍あり

著者 前川ほまれ
1986年生まれ。宮城県出身。
看護師として働くかたわら、小説を書き始める。
2017年、「跡を消す」で、第7回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。

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