虎を追う 櫛木理宇

「この国ではつねにマジョリティがおとなしく、マイノリティの一部だけがノイジーで人目を惹きがちだ」

北蓑辺郡連続養女殺人事件の犯人、亀井戸死刑囚が獄中で病死する。
この事件は今からおよそ30年前の1987年から88年にかけて起きた事件。
小学生の幼女が誘拐され性的暴行を受けたうえに殺された。
犯人は亀井戸健と伊与淳一の二人。
伊与死刑囚は再審を要求している。

亀井戸死刑囚が亡くなった事と当時の事件の様子を伝える新聞を見ていた元刑事星野誠司は当時を思い出す。
亀井戸と伊与は当時、空巣をしていた。
亀井戸は近所でも評判が悪く、自白をしたので逮捕となった。
当時、星野は「亀井戸が計画的に幼女を誘拐し、残虐な行為をしたとは思えない。
ましてや二人一組の性的連続殺人犯も聞いたためしがない」と上司に話をするが取り合ってもらえなかった。

星野は昔馴染みの記者、小野寺と居酒屋で会いなんとかして世論を動かして伊与の再捜査になるように動くつもりであることを告げる。
小野寺は世論を動かす見込みがあるなら記事にすると星野に伝えた。

星野は自分の孫で大学生の旭に冤罪で再審要求の文章をネットで公開したいと相談する。
旭は文章より動画を勧め、幼なじみの哲に相談する。
哲は動画作成と公開にあたって、被害者遺族全員の許可を取る事を条件にした。

一方星野は伊与の弁護士、片桐と会い自分が当時の捜査員だったことや冤罪の可能性があることを伝える。
片桐はこれまでの資料を星野に快く貸し出した。

星野、旭、片桐弁護士の3人は被害者の遺族、柳瀬久美子と木野下一己と会い自分達がやろうとしている活動を説明すると、条件つきで承諾を得ることができた。
小野寺は独自ルートで栃木総合テレビの報道番組プロデューサーの福永を巻き込む。
星野、旭、哲、小野寺、福永…星野組が結成された。

ツイッターや動画は思った以上に反響があり、哲が作った動画はそのままドキュメンタリーとして地方局ではあるがテレビ放映となった。
テレビ放映後、大手新聞社に真犯人を名乗る男から小包が送られてきたことが三面の記事に掲載された。
小包には女児用のスカート、古い爪、歯のかけらが入っていた。
文書には殺された幼女がよく歌っていた歌詞が書かれていた。
スカートは木野下氏が自分が娘に買ったスカートだと証言をする。

やはり冤罪だったのか!?
真犯人が名乗り出た理由は!?

そうして、新たな女児誘拐事件が起こる…。

【感想】
元刑事星野が主人公ですが、真の主人公は旭と哲です。
大学に入学したものの、燃え尽き症候群の様になってなんとなく毎日を過ごしている旭。
人との関係が上手く築けず引きこもっている哲。
特に哲が事件を表面化させる活動の中で無気力だった日々から自分の進路を見出し、やりたいことも口にするようになる変化は、この小説の第二の物語です。

小さい頃の生い立ちがその後の人生を決めてしまう可能性が高い。
親や周りの大人達の責任は重大です。
そのことをこの小説から読み取りました。

残念なのは、誘拐した幼女と犯人との描写です。
それが一度ではなく何回もあり、子を持つ親としては嫌悪を感じました。
リアルな描写は必要ないと思います。
そしてエピローグも必要だったのでしょうか?
幼女への性的暴行や誘拐、殺害は一つの事件が解決しても終わることが無い。
あえてこのエピローグで終わることにも後味の悪さが残りました。
これがイヤミスで著者が意図してのことなら、してやられました。

おススメ度
★★★★
リアルな暴行シーン(それも幼女に)やイヤミスが苦手な方にはおススメできません。

光文社
432ページ
2019年9月17日第1刷発行
本体価格 1700円

著者 櫛木理宇
1972(昭和47)年、新潟県生れ。
2012(平成24)年『ホーンテッド・キャンパス』で日本ホラー小説大賞読者賞を受賞し、デビュー。
同年、『赤と白』で小説すばる新人賞を受賞。著書
『ドリームダスト・モンスターズ』シリーズ
『死刑にいたる病』
『209号室には知らない子供がいる』
『鵜頭川村事件』など著書多数。