ペンギンは空を見上げる 八重野統摩

「努力だけではどうしようもないことは、世の中にある」by ハル

私のラジオ番組で「上半期のおススメ本」というテーマで本を募集したときに、常連のリスナーさんからの投稿で出会った本です。
小学生のハルくんが夢に向かって日々努力している姿を描いた小説。
冒頭の言葉はプロローグに載っていて、この言葉の前にある「努力しなければ夢は叶わない」のフレーズに心惹かれました。
ところが最後まで読んで、またプロローグをふと読み返すとこの言葉が持つ意味が重くて胸が締め付けられました。

おススメ度
★★★★★

【あらすじ】
佐倉ハルは小学六年生。
家は商店街にあるクリーニング屋。
両親と祖父とが営んでいる。
ハルは両親との関係が特に母親とは上手くいってなかった。
夢はNASAのエンジニアになること。
そのために小学1年生から英語の勉強を始め、今は手作りの風船ロケットで宇宙の様子を撮影するために準備をしている。


ハルはクラスから浮いた存在。
それはある事件も絡んでいる。
そんななか、幼なじみの三好だけはハルに声をかけてくる。
でもハルは三好に「学校では話しかけるな」と命じている。

ある日、ハルのクラスに転校生がやってきた。
金髪で青い目の女の子。
名前は鳴沢イリス。
ワシントンから転校してきたイリスは自己紹介で
「なかよくしてくれなくていいと思います」と言い放つ。
最初はいろいろ話しかけにきたクラスメイトもイリスの態度に腹を立て、物を隠すようになる。

イリスがいつも持ってきているウサギのぬいぐるみメアリーが無くなった。
雨に濡れながらメアリー探している所をハルが見つけイリスをほっとけなく、ハルは英語で切り出す。
驚きながらも素直に答えて一緒に探すことになる。
メアリーはゴミ捨て場で掃除に使うワックスにまみれて見つかった。
ハルはイリスを家に連れて帰り、ボイラーでアイロンをかけている祖父の哲じいにメアリーを託す。
ふかふかになったメアリーを見て喜ぶイリス。
それからは学校でハルの後をくっつくイリス。
風船ロケット二号の打ち上げに向けて準備をするハル。
三好とイリスと三人で打ち上げることになった。
当日は早朝から起きて三人分のお弁当を準備するハル。
打ち上げた後、三人でお弁当を食べて時間を過ごす。
そう、風船ロケットは打ち上げるだけでなく回収までするのだ。
ロケット内にデジタルカメラを設置し、ロケットからの映像を見るのが目的なのだ。
ガガーリンが言ったように本当に「地球は青いのか」
しかし、風船ロケット二号は回収不可能だった。

ハルを励ますようにイリスは言う。
「私ね、将来、宇宙飛行士になることに決めたの」
「ハルがロケットを作って、それにわたしが乗るの ! いい考えでしょう」
その言葉に対してハルは、
「お前みたいなやつは、宇宙飛行士になれない」と返す。
次の日からイリスはまたハルに話しかけなくなった。

そして、イリスにある出来事が起きて、学校にも来なくなった。
そのままアメリカに引っ越してしまうことが担任より告げられる。
ハルはイリスの家に向かう。

【感想】
ハルにはある秘密があります。
物語の後半にはその秘密が明らかになるのですが、そこがまたぐっときました。
ああ、だからハルの一人語りの形になっているんだ。

クラスから浮くことになった事件についても明らかになります。
イリスが学校に来なくなったこともハルの事件も決して小説の中だけの話ではありません。
そのことが悲しくもありました。

風船ロケットの制作についてはかなり詳しく説明があります。
実際に風船宇宙撮影の第一人者である岩谷圭介氏の著書を参考にしています。
私も興味を持って岩谷氏のホームページを観ました。
岩谷氏が思ったより若かったこと(昭和61年生まれ…まだ30代前半)
風船ロケットからの映像がとても美しいのが印象的でした。

岩谷圭介 ホームページ

ハルが大人になってNASAのエンジニアとして活躍している続編が読んでみたいな。

【目次】
プロローグ
第一章 海の向こうから
第二章 言葉の壁
エピローグ


東京創元社
258ページ
2018年5月25日第1刷発行
本体価格 1600円
電子書籍あり

著者 八重野統摩
1988年生まれ、北海道札幌市出身。
立命館大学経営学部卒業。
電撃小説大賞への応募作が編集者の目に留まり、2012年に書き下ろし長編『還りの会で言ってやる』でデビュー著書
「プリズム少女」
「犯罪者書館アレクサンドリア」
「終わりの志穂さんは優しすぎるから」など