お江戸けもの医 毛玉堂 泉ゆたか

「今、同じ時を生きている縁を、精一杯大事に生きていくさ」

心を通わせるには、寄り添うことをあきらめちゃいけない。
犬医者を題材に思いやる人の温もりを描いた、江戸版“ドリトル先生”物語!

おススメ度
★★★
連作短編集
すきま時間に読むことができます。
ちょっとした息抜きに読むのに適した本です。

【あらすじ】
吉田凌雲は妻の美津、犬の白太郎、茶太郎、黒太郎、猫のマネキとで暮らしている。
凌雲は元は小石川養生所で名医と知られていたが、今は養生所を辞めて毛玉堂という動物を診察している。

凌雲と美津は幼い頃に親同士が結婚を決めた間柄だった。
凌雲が小石川養生所を辞めて戻ってきたときは、小さな家にこもって腑抜けた状態だった。
そこに美津が押しかけて凌雲の世話をし、ようやく二人は夫婦になったのだった。

ある日、美津の幼なじみで水茶屋の娘、お仙が一人の男の子を連れて毛玉堂にやってきた。
男の子の名は善次。
お仙の恋人、政之助から頼まれて善次を預かることになり、凌雲と美津の所に頼みにきたのだった。
善次が犬や猫が好きとわかり、毛玉堂の見習いにする凌雲。

そんな毛玉堂に飼い犬のコタロウが何も食べないと一人の女がやってきた。
コタロウは十二年生きているという。
女はコタロウが心配でいつもは土間で寝ているが今は自分の寝床で一緒に寝ていると言う。それを聞いて凌雲は「コタロウのために何かしてやりたいのなら、あんたがコタロウに合わせて一緒に土間に寝てやってはどうだ」
そして、元気だった頃と同じ様に接して見送ることを勧める。
女は凌雲を睨みつけて毛玉堂を去って行った。

何日かして女が凌雲にお礼を言いに来た。
コタロウは安らかに永遠の眠りについたと…。
そして凌雲に言われた通りに土間で一緒に寝ると、子どもの頃にいつも土間で一緒に遊んでいたときのことを思い出し、最後には自分の手から焼き芋を一口食べて、そのまま動かなくなった事を伝えた。
凌雲は動物にも名医であった。

美津はとあるところで凌雲が他の女性と結婚する予定だったと聞き心がざわつく。
凌雲に真相を聞くことができない美津は…。

【感想】
この物語は美津の目線で書かれています。
凌雲と美津は夫婦であってもまだまだぎこちなく、お互いを思いやる余りに遠慮してしまうところがあり、読んでいてこちらがやきもきしてしまいました。
善次の出生の秘密やお仙の恋の行方も織り交ぜていて、次はどうなるのか???
と楽しみながら読みました。
凌雲の相手が動物でも人と同じ様に、相手の立場に立って接する場面はとても好感を持ちます。

【目次】
第一章 捨て子
第二章 そろばん馬
第三章 婿さま猫
第四章 禿げ兎
第五章 手放す

講談社
258ページ
2019年7月24日第1刷発行
本体価格 1450円
電子書籍あり

著者 泉ゆたか

1982年神奈川県逗子市生まれ。
早稲田大学、同大学院修士課程卒。
2016年に『お師匠さま、整いました!』で第11回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。軽妙な筆致と、立体的な人物造形が注目の若手女性作家。著書
『髪結百花』