見えざる網 伊兼源太郎

「連絡先を知っていることが繋がりのすべてじゃない」by 凛太郎

第33回(2012年)横溝正史ミステリ大賞受賞作
伊兼源太郎氏のデビュー作
「新たな犯罪手法のアイデアが秀逸」とは選考委員の綾辻行人氏の選評です。

おススメ度
★★★★
ミステリー好きな人にはおススメ。
最初のストーリーの展開に引き込まれます。

【あらすじ】
今光凛太郎は30歳。
一人暮らしをしている会社員。
本物志向のモデルガンの開発をしている。
「いつもはっきりした形でつながっている必要があるんですか」
テレビの街頭インタビューで「SNSを利用していますか」と聞かれて答えた内容だ。
凛太郎はその後も言葉を続けていたが編集されていた。
現に凛太郎は今時の若者には珍しくSNSをほとんど利用していなかった。

真夏のある日、出勤するために最寄りの駅のホームについた凛太郎は、いつもと違いホームが混んでいることに気付く。
その殆どが、いつもはこの時間には見ない若い男たちである。
若者の集団がスマートフォンを眺めながら、一斉にホームを時計周りに歩き出した。
ホームの最前列にいた凛太郎は背中から押される状態になりあわやホームに落ちるところだった。
この事をきっかけに凛太郎は車に惹かれそうになったり、頭上から植木鉢が落ちてきたりと不穏な出来事が続くようになった。

会社が夏休みに入る前日、凛太郎は学生時代にアルバイトをしていた店「ダニーボーイ」に顔を出すのが恒例になっていた。
ダニーボーイには凛太郎の後に中学の同級生で警察官の末松千春が現れた。
千春と会うのは8年振り。
次の日、千春と凛太郎は凛太郎の実家の寺に墓参りに行った。
凛太郎はこの間起きた出来事を千春に伝えるが、警察としては事件が起きていないので取り合わないとの事。
その日は千春と凛太郎そしてもう一人、引っ越してしまったサッカー部のキャプテン野崎との三人の思い出を語り合った。

これまで3回、凛太郎は危険にあった。
そのどれもに小さな影があった。
少年は凛太郎の監視役なのだろうか?
確かめるためにわざわざ特殊なルートで新宿に出て少年を待ち伏せた。
少年は偶然だと言い張り、その場を去った。

その日の新宿駅はお盆休みで旅行に出かける人が多く、いつもより混雑していた。
ルートを変えて逆行しコンコースまで戻ったときにそれは起きた。
甲高い悲鳴と地響きの様な音が続いた。
凛太郎が振り向くと、ホームの階段に人間が折り重なって倒れていた。
さらに悲鳴と共に大勢がなだれ落ちてきた。
凛太郎達がルートを変えなければ、確実に巻き込まれていた。

自分のせいで大勢の人が巻き込まれた。
凛太郎は一人でまず自分を監視している人物を見つけることにした。
池袋駅で同じ様に背中から圧を感じた。
振り返ると混雑するホームを力ずくで突っ切る集団がいた。
集団の先頭の男は立ち止まり携帯電話に何かを打ち込んでいた。
凛太郎は男に声をかけた。
ホームを走った理由を問い詰めると「フローラポイントだよ」
お金として使えるフローラポイントを貯めるために若者はホームを突っ切ったのだ。

フローラ社から送られてくるメッセージ通りに行動した者にポイントが与えられる仕組みだ。
1ポイントは100円に換算される。
なぜ、凛太郎の行く先々で事故が起こるようなメッセージが送られてくるのだろうか?

池袋駅で一番下になっていた女子中学生が死亡したとSNSのトップニュースが流れた。

フローラ社は何の目的で凛太郎を狙うのか?
これは始まりにすぎなかった。
そして凛太郎は自分と同じ現場にいつも現れる少年「ハチミツ」と対峙する。

【感想】
以前紹介した「金庫番の娘」の著者、伊兼源太郎氏のデビュー作です。

「金庫番の娘」

今回は「SNS」に焦点を当てています。

お金はないが時間はあり欲しいものを手に入れるためにポイントを集める若者たち。
ポイントのために送られてきたメッセージ通りの行動したために、大きな事故が起きる。
若者たちは自分たちの行動が事故を起こしたとは思っていない。

今でもポイントを集めるサイトはたくさんあります。
実際には起きてはいませんが、ありえる話です。
町中には歩きながらスマートフォンを見ている人は無数にいるからです。
読みながらゾっとしました。
スマホを使っているつもりが、使われている…そんなことになっていませんか?

「情報は使い方次第」
この一文にこの小説が伝えたかったことが凝縮されています。
後半の展開は「あ~、やっぱり」と思うところもありましたが、伊兼さんはコンプリートしたい作家さんの一人になりました。

角川文庫
404ページ
2015年9月24日第1刷発行
本体価格 680円
電子書籍あり

著者 伊兼源太郎
1978年東京都生まれ。
上智大学法学部卒業。
新聞社勤務などを経て、2013年に『見えざる網』(受賞時「アンフォゲッタブル」を改題)で第33回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。

著書
『事故調』
『外道たちの餞別』
『密告はうたう』
『地検のS』など

面白い対談を見つけました。
真藤順丈×塩田武士×伊兼源太郎 「いま」と「小説」