線は、僕を描く 砥上裕將

「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」by 湖山

【あらすじ】
 青山霜介は高校生の時に交通事故で両親を亡くす。
両親の死を受け入れられず、魂が抜けたような生活をしている霜介に担任や叔父が大学進学を勧める。
大学に入り一人暮らしを始めた霜介は、唯一の友人古前から頼まれたアルバイト先で水墨画に出会う。

たまたま居合わせた老人から、絵の感想を聞かれた霜介は思うままに口にすると、その感性と観察眼を買われて内弟子にすると言う。
老人は水墨画の第一人者、篠田湖山であった。

湖山を探しに来た孫娘の千瑛から、湖山に近づき内弟子にしてもらおうと思っていると勘違いされ罵倒される霜介。
その場の勢いで来年の湖山賞で霜介と勝負をし、負けたら会派を去ると言い出した千瑛。
素質があるからと受けて立つ湖山。
霜介と関係が無いところで、勝負は始まった。

霜介は湖山の家に行き水墨画を習い始める。
まず習ったのは墨をすることだった。
そして最初のお題は「春蘭」
来る日も来る日も春蘭を描き続ける霜介。

霜介が水墨画を始めた事を知った古前は大学祭で千瑛の水墨画の展示をすることを思いつく。
大学内で水墨画サークルも発足させ、千瑛を講師とするなかで霜介と千瑛の距離も少しずつ近くなっていく。
大学祭当日、準備も全て整った会場で霜介は改めて自分が両親の事故から解放されて、前に向かって歩いていることに気づいた。

湖山賞の締め切りが近づき、師の湖山からは「菊」のお題を与えられるが、思うように書けない霜介。
ありようの形しか描けないのだ。
菊を見つづける霜介。
そんな折、師の湖山が倒れて入院したとの連絡が入る。
見舞いに現れた霜介に湖山は「形ではなく命を見なさい」と告げる。

霜介は思うような菊を描くことができるのか?
湖山賞の行方は?

【感想】
 この本の作者はとても心が繊細な人ではないだろうかと読んでいて感じた。
霜介の心の動きだけでなく、親友の古前の変化が丁寧に描写されている。

本の最後に水墨画で扱う道具とご本人が描かれた水墨画が載っていました。
著者の砥上さんは水墨画家と知り納得。

霜介が水墨画を始めることによって自分自身と向き合うことができ、両親との別れを少しずつ受け止めていく様子に好感が持てました。
それは著者の砥上さん自身と重ね合わせているのではないか…そんなことを思いました。

とても静かな小説ですが、引き込まれて一気に読みました。
春蘭の画像も読み終わった後に調べ
「ああ、こんな絵なんだ」と確認までしてしまいました。

私は時折、筆ペンで文字を書くのですが、次は墨をすって筆で書いてみます。
読んでいて無性に墨がすりたくなりました。

講談社
320ページ
2019年6月25日第1刷発行
本体価格 1500円

著者 砥上裕將
1984年生まれ。水墨画家。本作で第59回メフィスト賞を受賞しデビュー。

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