ベルリンは晴れているか 深緑野分

LINEで送る
Pocket

今回はラジオ番組「ホンスキー倶楽部」2019年3月24日放送分より、リスナーさんのレビューを紹介します。

東京都 ラジオネーム ef
ベルリンは晴れているか 深緑野分  筑摩書房

圧倒的な描写力で綴る敗戦直後のベルリン

第二次世界大戦でドイツが敗戦した後、ベルリンは英、米、仏、露によって分割統治されました。
本作は、そんな敗戦直後のベルリンを舞台にした作品です。
タイトルを見て、「おや?これはルネ・クレマン監督の映画、『パリは燃えているか』を踏まえたものなのかな?」と思いましたが、さて、どうでしょうか?

主人公のアウグステは、戦争で両親を亡くした身寄りのない17歳のドイツ人少女です。
彼女は、幼い頃、英語に興味を持ち、自力で『エーミールと探偵たち』の英語版を訳して読んでいたことなどから英語ができるようになっていたため、敗戦後はアメリカ軍のカフェでウェイトレスの職を得ることができました。
そんなアウグステは、カフェで働き始めて間もない頃、突然ソビエト軍大尉のドブリギンのもとへ連行されます。
ソビエト文化部の演奏家であったドイツ人のクリストフが毒殺されたらしく、その犯人の疑いをかけられたからでした。

アウグステは、両親を亡くした後、クリストフ夫妻の家で面倒をみてもらっていた時期があり、クリストフはアウグステにとって恩人とも言える人でした。
そんな人を何故私が毒殺などしなければならないの?
アウグステに疑いがかかったのは、クリストフの妻のフレデリカが犯人の心当たりがある人間を言えと迫られ、苦し紛れにアウグステの名前を出してしまったからだということが分かります。

フレデリカは、事件の前に甥のエーリヒと思われる男性から不審な電話を受けており、このことを話したくなかったために仕方なくアウグストの名前を出してしまったというのです。
それ自体とんでもないことではあるのですが、アウグステは夫を亡くしたばかりのフレデリカを責めることはしませんでした。

ところで、何故ソビエト軍はクリストフ殺しの捜査にそんなに躍起になっているのでしょうか?
実は、クリストフはヒ素入りのアメリカ軍配給歯磨きを使って殺されたというのです。
四国分割統治下にあるベルリンで、ソビエト文化部の仕事をしている者が、アメリカ軍の物資に仕込まれた毒で殺されたとなるとかなりデリケートな状況と言わざるを得ず、政治的な意図を持ったテロとも考えられるため捨て置けないということのようなのです。

ドブリキン大尉は、ナチスの復活を企んでいる地下組織の人狼が、米ソ関係を悪化させるために仕組んだ事件ではないかと考え、エーリヒは人狼のメンバーかもしれないという疑いを抱いていたのです。
名前が出たからアウグステを尋問したものの、アウグステを疑っているわけではないと説明し、アウグステにエーリヒを探す手伝いをして欲しいと持ち掛けるのです。

アウグステは、自分のある思惑もあって、この申し出を受け入れ、エーリヒが潜伏していると思われる場所に詳しいというカフカという男を道案内につけてもらい、エーリヒ探しを始めるという展開になっていきます。
このようにミステリ的な要素もはらんだ話になっており、意表を突く結末も用意されていてその辺りも興味深いところではあるのですが、この作品の一番の魅力はミステリ的な点ではないと感じました。

ミステリとして出来を評価した場合、やや込み入った筋立てであり、ミステリ的解決部分はもう少し整理して書いて欲しい感も漂ってしまったのですが、本作の一番の魅力はそこではないと思うのです。
本作では、何といっても敗戦直後のベルリンの街、そこに生きる人々、それらの人々がそれぞれに抱えている戦時中の記憶の描写が圧倒的であり、その厚みや迫力はなかなかのものと感じました。
その点の優れた書き込みこそが本作の一番の魅力であり、読みどころではないでしょうか。
お勧めの作品です。

深緑野分 ふかみどりのわけ
1983年、神奈川県生まれ。小説家。
2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞で佳作に入選、
2013年に同作を含む短篇集『オーブランの少女』(東京創元社)でデビュー。
2017年、第66回神奈川文化賞未来賞受賞

著書
「オーブランの少女 」
「 戦場のコックたち 」
「 分かれ道ノストラダムス 」など

深緑野分 ツイッター

最後まで読んで頂きありがとうございます。
当ブログの記事があなたの読書のお役に立てれば幸いです。
また読みに来ていただけると嬉しいです

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

LINEで送る
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください