「正しいより面白い、人の役より自分の役に立つ、そんな情報が飛び交う世の中になっても不思議じゃない」by 相賀
作家の塩田武士さんを知ったのは、グリコ森永事件を小説にした「罪の声」です。
本屋大賞ノミネート作品だったのと、本好きグル―プで読んだ評価が高かったのもあり読んだのですが、「これが真実なのでは?」と思うほど引き込まれて読みました。
その塩田さんの最新作と知り、世に出て半年経ちますが図書館で偶然見つけて手に取りました。
5つの物語の主人公はいずれも、新聞記者もしくは元新聞記者。
どの話も誤報に関わる。
沢村政彦は地方紙の近畿新報本社、社会部の記者だ。
休日に家族と過ごしていると、社会部デスクのは中島有一郎からの電話だった。
会社の近くにあるインド料理店に行くと、沢村は中島からある案件を頼まれる。
中島は自社の特別チーム「プロジェクトIJ」の責任者。
このチームで市長選に関するスクープした。
そんな中島からの案件はひき逃げ事件に関してだった。
ひき逃げした車の目撃情報があり、その車は亡くなった被害者宅にある車と同じだというのだ。
プロジェクトIJ専用メールアドレスに送られた読者からの情報だった。
プロジェクトチームの記者桐野が裏を取ったと確認し、警察はまだ動いていないが沢村に被害者の家族に確認を取るように沢村に指示した。
被害者の妻が殺人の目的で夫を轢いたのか?
沢村は被害者宅のインターホンを押した。
【感想】
著者自身が元新聞記者なので、ノンフィクション作品なのでは?
と思うほどリアリティがあります。
5つの物語は一つひとつが独立しながらも、少しずつ絡んでいて最終話にまとまるので読み応えがありました。
記者も人なので誤報をしてしまうことはあるでしょう。
大切なのはその後の対応です。
間違いを公表して謝罪するのか、隠蔽するのか…
これは新聞社に限らず、組織において問われる問題です。
隠蔽することで新たな隠蔽が生じます。
人の人生が変わってしまうこともあります。
まさに人生が変わってしまった人たちが、この小説に登場します。
好きな場面は最後の5話目のさらに後半。
大手新聞記者で定年後、とあるきっかけからウエブサイトに記事を書くようになった相賀が後輩のウエブニュースサイトの編集長に帰り際に向けて放った一言。
「記者は現場やで」
しびれました。
かつ、めずらしく関西弁の会話に違和感を全く感じない文章でした。
私は新聞が好きなので今でも新聞を購読しています。
ネットニュースは自分で好きな記事だけを読むことができます。
新聞はページをめくり見出しを読むことで、身近な地域のことから他国のことまで、今世の中で起きていることをざっくり知ることができる便利なツールです。
限られた字数の中で自分の伝えたいことを語句を駆使して出来上がる文章に魅力を感じるのです。
特にシリーズものの記事に興味を惹かれます。
図書館に行くと新聞を読むことができます。
ネットでニュースを読むのも勿論否定はしません。
たまには紙面を広げてみませんか?
ネットニュースにはない記者のコツコツと取材を積み上げた記事を読むことができますよ。
【目次】
黒い依頼
共犯者
ゼロの影
Dの微笑
歪んだ波紋
講談社
275ページ
2018年8月7日第1刷発行
本体価格 1550円
電子書籍あり
著者 塩田武士
1979年兵庫県生まれ。
関西学院大学社会学部卒業後、神戸新聞社に入社。
2010年『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、小説家としてデビュー。
同作は第23回将棋ペンクラブ大賞文芸部門大賞も受賞。
2012年神戸新聞社を退社。
専業作家となる。
著書
『女神のタクト』
『ともにがんばりましょう』
『罪の声』など多数
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