天上の葦 太田愛

10月10日土曜日の正午
渋谷のスクランブル交差点で老人が
何もない空を指して絶命する。
鑓水の探偵事務所に
「老人が指していたものは何か?」
との依頼が服部を通じて磯部から舞い込む。
謝礼は1000万円
因縁のある磯部からの依頼とあり修司は断るように勧めるが
鑓水は依頼を受けなければならない事情があった。

一方、刑事の相馬は停職中。
そんな相馬の元に警視庁公安部課長代理の前島から
同じ公安部の刑事で失踪した山並を見つけるようにと
極秘の任務を受ける。

全く関係のない2つの出来事が繋がっていたと知り
鑓水、修司、相馬の3人は瀬戸内海にある曳舟島に向かう。
そこで得た真実は、遠く70年以上前に起きた太平洋戦争にまで
遡るのだった。

 

毎回、太田さんの小説には社会問題が提起されている。
今回は「報道の自由はあるのか?」
シリーズ前作の「犯罪者」「幻夏」とも事件の解決に欠かせない
ツールとして「メディア」が登場していた。
今回はその「メディア」そのものが事件のカギとなる。

太平洋戦争時では報道がコントロールされた。
戦況を正しく伝えず、人々は逃げることは許されず
焼夷弾が落ちても消火活動をすることを求められた。
そのために各都市での大空襲では多くの命が奪われる。
疎開さえしていれば多くの特に子ども達の命を奪われずに済んだ。
当時の大本営報道に携わった老人は言う。
「火は小さいうちに消さなければ」

今回この小説を読んで2つの事を思った。

1つは、何故この題材なのか。
今、まさに「小さい火」なのだという
著者のメッセージなのではないかと受け取った。
新聞やテレビが報じる内容は本当に真実なのか?
東日本大震災時における原発事故や
沖縄で起こっているオスプレイの事故など
本当に真実が全て報道されているのだろうか?
メディアコントロールの恐ろしさを知ったうえで
真実を見極める目が今、求められているのだと感じた。

もう一つは、戦時中の私の祖母の行動。
当時は隣組でお互いを監視するような状態だった。
祖母は当時神戸で暮らしていて回覧板には
「爆撃があっても家を守り逃げません」という署名が
回ってきて署名したらしい。
神戸も空襲にあい「このままだと死んでしまう」と
思った祖母は幼い母の手を引いて逃げたそうだ。
もちろん家は丸焼け、そのまま残っていたら死んでいたと。
祖母が母と逃げてくれたおかげで今の私が存在する。

次の作品が楽しみだ




 

 

「幻夏」 太田愛

 

 

ある夏休みの午後
相馬亮介はお昼ごはんのお弁当を買いに行き
同年代の兄弟、尚と拓に出会う

3人は意気投合し兄弟の秘密基地で
夏休みを過ごす
同い年の尚は亮介に
「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」と打ち明ける。
それでも2人の関係は変わらなかった。

2学期が始まる始業式の日
3人は一緒に学校に向かうが
尚が「忘れ物取ってくる」と家に引き返したまま
行方不明となった。
傍にはランドセルと不思議な印が残されていた。

相馬は刑事になり管轄内で少女の誘拐事件が起きる
現場には相馬が小学生の頃に起きた
行方不明事件と同じ印が残されていた。

捜査には担当課ではないものの気になり
元上司に様子を聞き、科警研の倉吉望を紹介される。

一方、鑓水は私立探偵となり必要となれば
修司をアルバイトで雇っていた。
そんな鑓水のところに一人の女性が訪ねる。
「23年前に行方不明になった息子を探してほしい」
と依頼し女性は姿を消す。

23年前の行方不明の男は相馬の友人尚だった。
果たして尚は見つかるのか?
誘拐事件は解決するのか?
相馬・鑓水・修司の独自の捜査が始まる。

 

 

前作「犯罪者」同様、あれこれ自分なりに推理をしながら
読んでいたが、やっぱり今回も良い意味で裏切られた。
そして何気に修司と亜連は上手くいき
しれっと相馬と碧子も恋人同士になってる!?
鑓水は生活ランクがかなり下がった感があるし…。

犯罪被害者は全ての生活が変わってしまい
無垢な子ども達まで巻き込んでしまう。
尚と拓の親子と理沙の親子の違いで親子の絆を深めるには
相手を思いやる愛情が不可欠だと感じた。

 

「犯罪者」太田愛 角川文庫

2005年3月25日金曜日の深大寺駅前広場で起こった
死傷者5名の薬物を使用した通り魔による殺傷事件から物語は始まる。
通り魔は近くの雑居ビルのトイレで薬物乱用による死亡が確認。
実はこの事件は始まりではなく途中経過だった。

5名の中でただ一人生き残った修司は病院で見知らぬ男から
「あと10日、生き延びてくれ」と言われる。
病院から消えた修司。

一方刑事の相馬は署で浮いていた。
事件の本丸から外され亡くなった被害者を調べる担当に配属。
修司の過去のデータから部屋に訪れた相馬は
修司が何者かに襲われるところに遭遇。

相馬のおかげで命が助かった修司
「あいつ…昨日の通り魔だ」
通り魔は死亡したはずでは…?

相馬は修司をかくまうために昔の友人鑓水のマンションに連れて行く。
「なぜ俺は狙われたのか?」
相馬・修司・鑓水は事件を調べていく。

 

著者の太田さんはTVドラマ「相棒」などのサスペンスものの脚本家。
本を読んでいてTVを見ている様な錯覚に陥りました。

場面転換が早く、時系列も行ったり来たりするので
読むのに時間がかかってしまいした。
でも、面白い!!

ある程度展開を予想して読みますが
何回も裏切られました(笑)
映画よりじっくりと時間をかけてドラマにして欲しい1作です。

 

「晴れの日のは 藍千堂菓子噺」 田牧大和

「今、あの二人を見捨てたら、俺の菓子の味はきっと濁ってしまう」

 

神田、相生町の片隅に店を構える「藍千堂」
晴太郎と幸次郎の兄弟、菓子職人の茂市と
三人で営む小さな菓子屋。

菓子を作るのは、根っからの職人気質の茂市と
兄の晴太郎。
算盤勘定や商いは弟の幸次郎が切り盛りしている。

茶席で出す上菓子から子どもの駄賃で買える四文菓子まで幅広く作っている。
そんな藍千堂に起こる人情噺の第二弾。

 

今回は兄晴太郎が恋に落ちるお話。
兄晴太郎が恋をした相手は
小さな娘を抱え嫁ぎ先から離縁された佐菜。
その佐菜の嫁ぎ先は年番方与力の鎧坂竜之介。
娘が居ると知って佐菜親子を探す鎧坂。
晴太郎の恋は実るのか??

これが今回の主軸ですが、
茂市さんが主役の話や
晴太郎・幸次郎兄弟の母にまつわる話に
節句のお菓子が出てきてホロっとする場面もあります。
金平糖が食べたくなりました。