「2017年マイベスト本」
兵庫県 ラジオネーム 大乃国のぶお
とにかく散歩いたしましょう
小川洋子
①この本のおすすめどころ
毎日新聞に定期連載されたエッセイをまとめられたもの。
これを読むことは、小川作品の源流を辿ったような気分になれます。
小説のこの部分はエッセイのあのエピソードだ、と繋がるのです。
エッセイの中の章「ふと、どこからともなく」は小説「人質の朗読会」。
エッセイ「悲哀はお尻の中に」は小説「いつも彼らはどこかに」。
ベストの理由はもう一つ。私と同時期にこれを購入した友人に毎日1話分ずつ読んだその感想を送ったのでした。
相手は嫌な顔もせず返信をくれるから楽しくて仕方のない毎日でしたが、やがて終わりがやってきます。
寂しくなるなぁと思い始めた時、思いついたのです。そうだ、振り出しに戻ろう!
そして二巡目が始まったのでした。本と深く繋がれただけでなく、本仲間とも絆の強くなった一冊です。
②この本との出会い
SNSの本グループで紹介されました。書店で手に取った時、表紙の可愛さに惹かれたのもあります。
③今年読みたい本
エッセイにも出てくる、もう1人の小川洋子さんの作品、植物誌。
作家の小川洋子さんのオススメというのもありますが、作者の思い入れがとってもいい!ただ、難点は難しそう。そしてとにかく高い。
♪小川洋子
小川洋子『いつも彼らはどこかに』刊行記念インタビュー
(新潮社のサイトより引用)
たてがみはたっぷりとして瑞々しく、温かい――人の孤独を包み込むかのような気高い動物たちの美しさ、優しさを、新鮮な物語に描く連作小説集。 |
きちんとした構想というほどのものはなく、久しぶりに長編(『ことり』)を書き下ろした後だったので、短編が書きたくなったんですね。短編が続くと長編が、長編を書くと次は短編が書きたくなります。動物が毎回出てくる話にしようということだけ書く前に決めていました。まだなにも書いてない段階で連載のタイトルをつけなくてはいけなくて、ふっと「いつも彼らはどこかに」という言葉が湧き出てきたんです。自分がつけたタイトルなのに、その言葉が持っている力と、動物たちが持っている力に助けられて書けた気がします。
これまであまり意識してこなかったのですが、デビューして二十年くらいたってふりかえったとき、自分の小説で、動物が重要な役割をはたしていることに気づいたんです。たとえば『やさしい訴え』で言えば、無口な登場人物ばかりの閉ざされた関係の中で、主人公の飼っている犬が一匹入ってくるだけで空気が動く。でも最初から人と人との関係を開放しようと思ってそうしたのではなく、取材に行った先にたまたま犬がいたので書いただけだったんです。私の意図しないところで、物語のために犬が力を貸してくれた。小説を書き続けてゆく中で、こんなふうに少しずつ動物が持つ意味を自覚するようになりました。今回は、言葉を発しないものの存在が言葉の世界にとっていかに大事かを、意識的に確認してみようと思いました。
八編の中には、かなり前に出会った事柄がもとになっているものもありますし、締切ぎりぎりになってふっと出会いがやってきたものもある。タイトルの「彼ら」は「偶然」と置き換えられると思います。いつも偶然はどこかにあるのに、人間のほうの都合でつかみそこねたり、気づかなかったりしているんです。
「ハモニカ兎」の場合は、よくニュースなどで見る「○○まであと何日」と、一つずつ減っていく掲示板、あれって間違えていたら大変なことだなといつも思っていたんです(笑)。「断食蝸牛」は、小説に書いたようなカタツムリの病気があると知ったこと。寄生虫にやられたカタツムリの触角がレインボーに輝いてうねる映像をユーチューブで発見したところから始まっています。本当にごく小さな偶然です。ユーチューブの中で蠢くカタツムリを風車小屋へ持って行くのが物語をつくるということなのかもしれませんが、書き終わってみれば最初から彼らはそこにいたような気もします。
チェスや数学やチェンバロなどいろいろな題材を選んできましたが、自分がチェスをしたりチェンバロを弾いたりという趣味はないんです。動物もそうで、小さいころ熱帯魚を飼ったり小鳥を飼ったりしていたのも、昭和の子供はみんなそうしていたというだけですし。ただ、「野生の王国」というテレビのドキュメンタリー番組や図鑑を見るのは好きでしたね。ちょっと離れたところからじっとそれを見ているというのが自分にとっては有意義な時間で、それですごく満足するんです
仕事の現場って面白いですよね。その職場だけに通用する規律や独特のルールがあって。私生活では積極的に人と会うほうではありませんが、仕事で人の話を伺うのはぜんぜん苦にならないです。私にとって、自分が生きているこの世界を知る方法が小説で、小説を読んだり書いたりすることを通して、この世界を旅しているんだなあと思います。
どんなに自分は孤独だと叫んでも、人間は本当に孤独にはなりきれません。競馬場にいる一頭の馬と心のどこかでつながっていたりする。言葉では成立しない何かによって、世の中のいろいろなものと実はつながっていると、ふときづく瞬間があって、そこに含まれているのは喜びなんですね。たとえほかの人とは共有できなくても、喜びと名付けていい瞬間なのではないでしょうか。
♪小川洋子
千里金蘭大学短期大学部非常勤講師。1943年鹿児島県生まれ。
「植物誌」
植物学の祖と称される著者テオプラトプスがヘレニズム世界の五百余種の植物を、はじめて分類記載し、用途や利用法まで伝える書。
1冊5000円 2巻出ています